1.裏切り

「お前たち、何をっ」
 突如として寝室に押し入ってきた五人の男たちの姿に、先日この国の王となったばかりの少年は驚いて椅子から腰を浮かした。
「夜分遅くに申し訳ありませぬ。ラウルフィカ陛下。実は我らは」
「内密の話がありまして」
 そう言って彼らは、控えていた警護の兵士たちと侍女を追い払ってしまった。
「話……とは?」
 父母を亡くしたばかりで心細くなっている少年は、突如として現れた男たちの姿に戸惑いをあらわにした。青い瞳を不安げに揺らす。
 先日の「事故」によって亡くなった父王の後を継いだのは、まだ十三歳の少年王ラウルフィカ。艶のある黒髪に、深い蒼い瞳が特徴的な美少年である。さすがにまだ幼く子ども以外の何とも呼べない年齢であるが、彼のことを美少年と呼ぶことに異論がある者はいないだろう。
 先の王にはラウルフィカ以外の王子はおらず、現在このベラルーダの王位を継げる人物はラウルフィカの他にはいない。選択の余地がないのだからと周囲はこれまでひたすら帝王学を修めさせられてきたラウルフィカを玉座に座らせて、それで満足したはずだった。
 父王の葬儀も終わった現在、幼君には付き物の摂政を選出し、それであとは全てがうまくいくのだとラウルフィカは思っていた。
 この瞬間までは。
「はい、実は陛下の権力を我らに譲り渡していただこうと思いまして」
「は?」
 目の前の男が何を言ったのか、ラウルフィカには一瞬理解できなかった。
 集まった男たちは、それぞれの分野で第一線の活躍をしている者たちばかりだが、年齢的に言えば若手だ。上は三十代半ばから下は二十歳を過ぎたばかりの青年までいる。
「政治に関してはこのゾルタが」
「軍事に関しては我、ミレアスが」
「貴族庁に関しては私、ナブラが」
「財政に関してはこのパルシャが」
「そして、魔術に関しては宮廷魔術師長であるザッハールが取り仕切らせていただきます」
 勢揃いして形ばかりの礼をとった五人の男の纏う空気に不吉な予感を覚えながら、ラウルフィカはとりあえず頷く。
「あ、ああ。お前たちの能力に関しては信頼している。これからも王の……我が名の下、ベラルーダのために力を尽くしてほしい」
 王子として育てられてはいたが、社交界には馴染めずに顔もそれほど広くない少年は、宮廷で見た事がある程度の男たちを前に、精一杯の語彙を集めてそう口にした。
 しかし本来彼の臣下となるべき五人は頷かなかった。
「いいえ、陛下。我々は、あなた様の下ではなく、上に立ちとうございます」
「――は?」
「あなたの持つ権利、全て渡していただきましょう。まだわかりませんか? これほど簡単な言い方をしているのに。無力で愚かなお子様には通じませんか? ならば言いなおしましょう」
 父王に仕えていた宰相の息子ゾルタが、蓄えていた口髭の下でいやらしく笑う。
「貴様のようなガキには精々我らの従順な傀儡になるしか能がない。さぁ、大人しく全ての権利を渡してもらおうか」
「っ?!」
 ラウルフィカが息を飲んだその瞬間、目の前の男たちが立ち上がり、その身体に手をかけた。
「あなたに断る権利などないということを、今からわかりやすくその身体に教え込んで差し上げますよ」

 ◆◆◆◆◆

「最初に言っておきますが、助けなど呼んだところで無駄ですよ。使用人たちは全て遠ざけましたから」
 その言葉とともに、男たちは凌辱を開始した。
 二人の男が両腕をそれぞれ押さえこみ、正面に一人座る。ラウルフィカは中途半端な膝立ちの姿勢を強制された。
 銀髪の魔術師ザッハールに唇を奪われる。
「ん、んんん、ん!」
 驚きに僅かに開いた隙間から、舌が伸びて来た。ラウルフィカの口内をまさぐるだけでは飽き足らず、奥の方に縮こまっていた舌を無理矢理引きずり出す。逃げようとしてもお互いの舌が深く絡まっているので、舌を噛んでやることもできない。
「……ぷはっ、はぁ、はぁ」
 ようやく唇を解放されて、ラウルフィカは気持ち悪さよりもまず息苦しさから解放されるために息を吸う。長い長い口付けは、予想していなかったラウルフィカを酸欠状態に陥らせた。
 ぐったりと力の抜けた体は、あとの四人に押さえつけられている。
「誰が行く? 誰から味わう?」
「体勢を選ぶのはそれからだな。前から、後ろから、どうやって攻める?」
「せっかちだな、あんたたちは。どうせなら、もっと可愛がってからにしようぜ」
 一行の中では一番若いザッハールが言った。彼はまだ二十歳過ぎだ。顔立ちも悪くはなく、この年齢で宮廷魔術師長とは異例の出世だ。欲しがるまでもなく美女が群がるだろうに、何故こんなところで自分何かに不埒な真似をするのだろう。
 ザッハールの手がラウルフィカの衣装を寛げる。完全に脱がしてはしまわず、前開きの衣装の帯を解いた。
「動かないでくださいねぇ。ラウルフィカ様」
 中の下着は脱がすなどとまだるっこしいことはせず、短剣を取り出して切り裂く。これまで荒事とは無縁に生きて来た少年にとって、刃物を近くに寄せられるのは恐怖だ。ラウルフィカは息を飲み、体を縮こまらせて下着が切り裂かれるのをただ受け入れるしかなかった。
 鎖骨から胸板、下腹部から生白い太腿までが露出される。正面のザッハールが、じろじろと舐めるように身体を眺めまわした。
「や……やめろ! この無礼者!」
 羞恥に顔を赤くしながらラウルフィカが怒鳴りつけるも、ザッハールはにやにやするばかりでいっこうに堪える様子も怒る様子も、もちろん止める様子も見られない。
「ああ、綺麗、綺麗だ殿下。いや、違った。もう陛下だっけ?」
「お前らの言い方だと陛下になって格下げされたようだがな!」
 更に言い募ろうとしたラウルフィカの行動は、押さえられた腕を捩じり上げられたことによって阻まれる。
「あう……!」
「大人しくしていただけますかな? 陛下」
 摂政ゾルタが蛇のような目をしながら、ラウルフィカの耳元で言い聞かせた。
 腕を捩じり上げているのは、彼とは反対方向から押さえつけている軍人ミレアスだ。折られるかと思うような痛みにラウルフィカがびくんと震え、小さく高い悲鳴をあげたのを楽しんでいる。
「ひぃ! い、痛、やめ」
「ミレアスは加虐趣味なのですよ。それも自分に反抗する者には容赦ない。あまり我々を怒らせると、もっと酷い目に遭わせますよ?」
 ゾルタの囁きに、腕を捩じりあげられて涙目のラウルフィカはそれこそ反抗的な目で応えた。それはすぐにミレアスにも伝わり、更に痛むよう力を加えられる。
「ああっ! く、う、やめ……!」
「我々の言う事を大人しく聞いていただけますかな?」
 のけぞった喉に、ゾルタが指を這わせる。
 それでもラウルフィカは唇を噛みしめたままいやいやをするように、もしくは痛みを振り払おうとするかのように首を横に振った。
「やれやれ仕方がない。強情な方だ。ミレアス、今は離してやれ」
「しかし」
「お前に割り当てられた時間の中で好きにすればいい。陛下も、ここで素直になっておいた方が良かったと後悔すればよろしい」
 割り当てられた時間とは何のことだ。ラウルフィカが疑問に思う間に、ミレアスの腕の力が弱められる。
「あなた様はあとでこの男に甚振られながら、ここで止めようとして差し上げた私がどれほど寛大だったか思い知ることになるのですよ、陛下」
 ねっとりとした目でラウルフィカを眺め、ゾルタが酷薄に笑う。
 この美髯を蓄えた三十代の男は、世襲制の宰相一家の人間だ。王が死んだのと同時に先代が辞職し、息子である彼が宰相の座についた。ラウルフィカにとっては摂政であり、のちの宰相となるのはこの男だと昔から顔だけは知っていた。ベラルーダの宰相は一王につき一人という妙な伝統があるためだ。彼だけは唯一、直に宰相位につくための下積みを宮殿内で行っていたために、他の四人よりはラウルフィカと面識がある。
 軍人のミレアスは軍部の二大派閥の片方の長の副官だ。二十代半ばの体格の良い青年で、このまま順調にいけば派閥の長になれるだろうと目されている。彼はまだ若いために、年功序列の軍人社会で上官を押しのけていきなり軍部のトップに躍り出るわけにはいかない。
 しかし騎士から始めてここまでのし上がった軍人として、国内の人気は高い。加虐趣味などという噂は聞いたこともなかった。
 痛みに喘ぐラウルフィカの様子に興奮していた様子を国民が見たら、期待が裏切られたと思うことだろう。ゾルタに関してもそうだ。女遊びの噂もほとんどない宰相を世間では評価しているのに、実態はこんなものだなんて……!
 ラウルフィカの目元に溜まった涙をザッハールが舌で舐めとる。
 彼のその行為のせいで目をつぶっている間に、何かぶよぶよとしたものが胸に触れてラウルフィカは驚いた。
「ひぃ!」
「可愛いなぁ。何も知りませんと言った反応が初々しくてよいよい」
 でっぷりと太った金髪の男がラウルフィカの胸の突起をそのぶよぶよとした手で撫でまわしていた。明るくつやつやとした髪色をもってしてもまったく美形ではないこの男は一体何者なのか、ラウルフィカはこれまでに会ったことがない。
「彼はベラルーダ一の商会、ヴェティエル商会の当主パルシャですよ。王国としては繋がりを切っても切れない、役職はなくとも王国で最も金の流れを操作できる男ですから懇意にするとよろしい」
 ゾルタが太った男の身の上を紹介した。商人という話で、確かに成り金じみた豪華すぎるだけで悪趣味な格好をしている。間違っても懇意になどしたくない相手だ。
「ああっ!」
 そんなラウルフィカの気持ちなどいざ知らず、パルシャは容赦なくラウルフィカの乳首を捏ねまわしていた。太い指で挟み、押しつぶし、子どもが玩具で遊ぶように、時折ひっぱったりなどしてみせる。
「どうだ? 気持ちいいか? いいだろう?」
「う……」
 ラウルフィカは惨めさに再び涙が浮んだ。弄り回される乳首は張り詰めて痛いばかりで、まったく気持ちよくなどない。彼らが何を考えてこんなことをしたいのか、まったくわからない。
 ぐい、と無茶でない程度に顔の向きを変えられ、再び口付けられた。またもやザッハールだ。この男は人の唇を無理矢理奪うのが趣味なのだろうか。
「王様は、まったく気持ちよいって顔しないね。もしかして、処女? 自分が何をされてるかもよくわかってない感じ?」
「陛下は間違いなく処女だぞ、ザッハール。その手の事は、自然と耳に入ってくるからな。ラウルフィカ様のこれまでの人生は慎ましく清らかなものだ」
「その花を私たちで穢してやろうというのだから、宰相も腹黒いことを考える」
 貴族のナブラが口を開いた。
「ラウルフィカ様、あなたは先の王が大事に育てた深窓のご令息。あなたに触れたいと思う者は、この国には多いのですよ」
 華やかな顔立ちの、色男という言葉が似合うナブラは大貴族の当主だ。年の頃は二十代後半で、確か先日婚約が決まったと使用人たちが噂していなかったかと、ラウルフィカはぼんやりとした頭の中で思った。
 彼は貴族らしく荒れのない手で、ラウルフィカの下腹部に手を伸ばす。茂みを荒らすように指先でわけると、その下の男としての急所を手の中に収めた。
「ふぁああ!」
 驚きのあまり、ラウルフィカの頭が一気に覚醒する。
「な、何をする気だ! やめろ! 放せ! 放してくれ!」
 暴れようとするラウルフィカの腕を、ゾルタとミレアスが簡単に押さえこんでしまう。ナブラはラウルフィカのものを、強く弱く握りしめてその反応を伺う。
「あなたが感じていらっしゃらないようだから、快感を得る手助けをしてさしあげようと言うのですよ、陛下」
 色男の指がすっと持ちあげたものを、どれどれと他の男たちまでもが覗き込む。
 ラウルフィカは今この瞬間にでも、羞恥で死んでしまいたいと思った。
「綺麗なものだね。まったく使いこんでいない」
 ナブラの手に乗せられたそれを、ザッハールが指でつつ……となぞる。
「ふぁ、あ、あ」
 その感覚がむず痒くて、ラウルフィカは思わず声をあげてしまう。今までの苦痛を訴える呻きとは何か違うことが、周りの男たちにもわかった。
「気持ちいい?」
 この場でできるせめてもの抵抗として顔を背けるラウルフィカに対し、ザッハールはくすくすと笑いながらなおも尋ねてくる。先端をつつき、筋を爪で辿りと彼はラウルフィカのものを弄るのに余念がない。
 真正面にいるせいか、先程からこの男の美しい顔ばかりを目にさせられてラウルフィカは困惑する。
「ああ……!」
 手の中のものを握りしめられて、一際大きく体が震える。しかし、彼らはラウルフィカの体にたまる熱から解放まではしてくれない。
「そろそろ後ろに行こうか」
「……うしろ?」
 ナブラがザッハールに何か手渡すのが見えた。とぷん、という水音から察するに液体を入れた壜らしい。蓋を開けて中身を手のひらに出すザッハールの手が、淡い緑に濡れた。
 強い花の香りが漂う。香油だ。
「ヒァ!」
 それがどういう意味をもたらすのかを理解する前に、本来排泄だけをするはずの器官に異物感を覚えた。
「い、いや……!」
「だーめ。ちゃんと慣らしておかないと、後で辛くなるからね。ほら」
「あ、ああっ、あ、」
 ザッハールがその長い指で、ラウルフィカの中を蹂躙していた。直腸に指先で触れられるなどこれまで経験もしたことのなかったラウルフィカは、気持ち悪さよりもひたすら恐れに目を見開く。
「いや……いや、だ」
 後ろの穴を探る指に、体を串刺しにされたような恐怖を覚える。香油のきつい香りの中で頭がくらくらする。足を閉じたくとも、正面にいるザッハールはその間に腕を通して尻穴を弄んでいるわけだから、閉じる事が出来ない。
 両腕はゾルタとミレアスに押さえこまれたままで、そろそろじんわりと痺れてきている。胸元は相変わらず肉の塊のようなパルシャが弄り回し、股間はナブラに押さえられている。
 ザッハールの指が、しつこく抜き差しされる。手前から奥へ奥へとほぐしている指がある一点を突いた時、ラウルフィカの体に明らかな変化が現れた。
「あっ」
 一際大きくあげた声を、全員が聞いている。びくりと大きく震えた体が、少年の快感を伝えた。
「ふぅん、ここか。ここがいいんだ」
 一度覚えた場所を、ザッハールの指が今度は集中的に突く。そのたびにびくびくと体が跳ね、あまりの快感に息が苦しくなる。
「こちらも元気になってきたようだ」
 ナブラの言葉に、ラウルフィカは顔を真っ赤にしてきつく目を瞑った。前立腺を刺激されて、前の部分にも明らかな変化が現れたのだ。
「そろそろいいんじゃないか?」
「ああ。もうぐっちょぐちょのべっとべと。エロい顔してるよ、少年王様」
 ザッハールが指を抜く。ラウルフィカは一瞬安堵したが、すぐにそれが間違いだと気付いた。
「では、取り決め通り私からでいいのかな?」
「くっ、良くはねぇ、良くはねぇよ宰相殿」
「我が儘を言うなザッハール、この計画を主導したのはゾルタだぞ。最後に加わったお前が一番おいしい思いをしてどうする」
「わかってるよ。あーあ、せっかくの初物、俺が頂きたかったのに」
 しぶしぶとザッハールが腕をラウルフィカの足の間から引き抜き、立ち上がる。ナブラとパルシャも離れ、腕を拘束していたミレアスまでもが手を離したために、ラウルフィカはがくりと膝をついた。
 ただ一人残ったゾルタがラウルフィカの体を支え、床に横たえる。彼はラウルフィカの足を肩に担ぎあげるようにしてラウルフィカの上にのしかかった。
 それまで散々ザッハールに弄られていた後ろの入口に、熱く滾ったものが押しあてられる。
「ひ」
「この日を心待ちにしていましたぞ、殿下」
 即位前の敬称で少年を呼び、ゾルタはその中に押し入った。
「い、いた、痛い!」
 いくら潤滑油の手助けを借りたとはいえ、初めての身体に遠慮もなく踏み込まれてラウルフィカは悲鳴をあげる。
「ああああああ!」
「権力者の悲鳴というのは心地よいものだな。それがこんな若く美しい少年のものだというなら尚更だ」
 ぐふぐふと笑い声を立てるのは商人のパルシャだ。ナブラとミレアスも同意するように頷き、ただ一人、初物を奪われたザッハールだけは不機嫌そうに壁にもたれている。
 押し入られたものの質量で息が詰まりそうになっているラウルフィカを、しばらくするとゾルタはガクガクと揺さぶり始めた。入れるどころか中を勢いよく擦られて、ラウルフィカの喉からはますます高い声が上がる。
 心地よい音楽でも嗜むかのようにそれを聞きながら、男たちは残酷な会話を続けた。
「さて、次はナブラ、貴殿だったな」
「ミレアス、お前は最後だ。加虐趣味め。私は傷だらけの身体などには興味ないからな」
「ちっ、こんな若造の使い回しなど」
「俺はぜひとも初物をいただきたかったんだけどなぁ」
 夜はまだ、終わる気配も見せなかった。


2.服従

 ベラルーダの王子、ラウルフィカの自我はそもそも酷く曖昧なものだった。
 有体に言えば気弱ということだろう。たった一人の世継ぎの王子として育てられはしたが傲慢になりすぎることもなく、むしろ穏やかで争いを好まない大人しい気性の子であった。
 誰かを蹴落としてまで欲しい物や、相手も自分も不愉快になりながら通したい意地などまるで持っていなかった。生まれながらにいずれ全てを与えられることが約束されていた王子は、他人を羨み、ましてや恨む感情など知りもしなかったのである。
 有頂天になれるほど才能豊かではなく、卑屈になるほど無能でもなく。「普通」に「優秀」な子ども。それがラウルフィカ王子。人々の期待を裏切るほど愚かではないが、けっして周りの度肝を抜く破天荒な存在にはならぬだろうとも予想されていた。
 あまりにも理想的であり、だからこそ言いかえれば王子としては凡庸で個性のない人物。ラウルフィカはそういう少年だった。
 そう、この時までは。

 ◆◆◆◆◆

 五人の男たちに代わる代わる抱かれた後二日間、ラウルフィカは寝込むこととなった。
 彼の様子を診た医師は、両親を亡くした心労が今頃やってきたのだろうと告げた。先王の葬儀を終えて、一般市民は喪に服すのをやめて国内が落ち着いてきた頃。一気に疲れが出ても無理はない、と。
 その医師はゾルタたちとは無関係だった。だから、ラウルフィカの体中隅々まで診察したわけではない。他に明らかな理由が見当たらなかったためにそう結論づけたのだろう。
 その日の午後、今度はゾルタが別の医師を連れて来た。全ての事情を知る医師は、何も言わずにラウルフィカの身体に処置を施した。
 何人もの人間が見舞いと称してラウルフィカの下に来た。話の合間にラウルフィカは、例の五人の噂について聞いた。
 二日経ってラウルフィカはようやく寝台から起きあがれるようになり、玉座のある謁見の間で彼は正式に宣言することとなった。
 宰相ゾルタをはじめとする代表者たちに、自らの権力の一部を譲りわたすことを。一部とは言いつつも、これでラウルフィカ自身は実質的に宰相たちの傀儡となることを宣言したも同然だった。

 ◆◆◆◆◆

 ラウルフィカは名実共にベラルーダ宰相となったゾルタの部屋へと向かっていた。
 王宮に仕える高官の一部には、王宮内に専用の部屋があるのだ。ゾルタももちろん、王宮内に一室を与えられている。起きあがれるようになったら部屋へ来るようにと命じられていたのだ。
 唇をきつく噛みしめ、ラウルフィカはゾルタの部屋へと向かう。途中険しい顔をする彼に声をかけてくる者もいたが、実はまだ気分が悪いなどと言って誤魔化した。
 気分が悪いのは本当だ。それが身体的なものではなく、本当に精神的な気分であることが問題だった。
 まだ幼さの残る国王を迎えた宰相の部屋は、下品ではなく豪奢に飾られていた。動かしにくい大きな調度品は今も昔も価値の変わらない名工の手によるもので、小物には最近の流行を取り入れている。
「いらっしゃいませ、国王陛下」
 ゾルタは応接用のテーブルの方で酒を飲みながら主君たる国王を迎えた。ラウルフィカは無礼な態度に内心怒りを感じながらも、表面上は無言を貫く。
「こんな夜に、堅苦しい格好ですね」
「そうでなければ、私は相当の無礼者と見られるだろうな。もしくは、お前と何か怪しい関係でもあるのかと疑られる」
 ラウルフィカの返答に、ゾルタが口角をあげた。
「それでいい、陛下。あなたは適度に小賢しくあれば」
 ゾルタはおかしそうに笑う。
「聡明なラウルフィカ様、あなたはわかっておられるのでしょう? あなたが我々を告発したとしても、誰のためにもならないことを。そう、あなたのためにすら」
 ラウルフィカはゾルタを睨んだ。
 そう、憎らしいことに彼の言うことは正しい。最年少のザッハール以外は皆、自力でその地位を築き上げた国内有数の権力者。有能なのはもちろん、周囲にはどこまでも善人の仮面をかぶり続け信頼を得た人物たちだ。
 ラウルフィカはこの二日間、見舞いに来た貴族や使用人たちなどから彼らの評判を聞いたのだ。返って来る答は「良い方です」との言葉ばかり。正確に言えば商人のパルシャは強欲で一部には煙たがられ、魔術師ザッハールもおちゃらけた態度が鼻につくと目上にはとことん嫌われているようだが、後の三人は突き崩す隙がない。
 特に宰相ゾルタと公爵ナブラの両名は表向き完璧な人間を演じていた。誰に語らせても、この二名の評価は覆らない。貴族社会で生きる彼らはそれほど慎重に己の名声を築き上げて来たのだ。
 まだ十三歳の、他者の才能と比肩できるほど突出したものを持たない少年王如きが対抗できる人物ではない。
 今ここでゾルタたちが実は悪人だと声高に訴えれば、権力者の座から放逐されるのは彼らではなく自分の方だろうと、ラウルフィカは王国の現状を正確に理解した。
 性格がどうであれ、ゾルタたちが有能なのは間違いない。今ここで彼らを排斥して、その後ラウルフィカに何ができるというのか。彼らの代わりに真面目に国政をとる者を選出することすら、ラウルフィカにはできない。
 無力だった。絶望的な程に、今のラウルフィカは王として無力だった。
 ゾルタたちに従わないのならば、素直に自害するくらいしか穏便な方法は存在しない。
「あなたは大人しく、私たちに従えば良いのです。そうすれば、悪いようにはしない」
「あんなことをしておいてか」
「あれは遊びですよ、殿下」
 わざとラウルフィカを殿下――王子時代の敬称で呼び、ゾルタは無知な子どもに言い聞かせるように言葉を紡いだ。
「あなた様はこの先いくらでも、人に対して頭を下げねばならぬ場面がある。表向き国王と臣下という立場であっても、裏で謝罪を強いられることもある。それができねば、問題を大きくするだけのことも」
 ゾルタは立ち上がりラウルフィカの前まで来ると、顎を掬うようにして持ちあげた。僅かに仰のかせて、視線を合わせる。
「あなたは美しい」
 これほど言われて嬉しくない褒め言葉もないとラウルフィカは思った。
「あなたは美しい。そして王だ。この二つが揃えば、あらゆる者が機会こそあればあなたを屈服させたいと願うでしょう。あなたが泣いて哀願する姿は、どんな極上の美酒より相手を酩酊させるのです」
「腐っている……!」
「大人の世界とはそういうものです。しかも哀れなことに、あなたにそれを拒む権利はない。むしろこの時点で我らにしっかり教え込まれた方が、のちのち引き裂かれる傷が浅くて済みますよ」
 ラウルフィカの顎から手を離し、ゾルタは再び先程の席へと戻った。そしてもう一杯、杯に酒を注ぎながら言う。
「それでは、私と遊んでいただきましょうか、ラウルフィカ陛下」
「調子に乗って!」
「あなたに拒否権はないのですよ」
「そうして、貴様らは私を壊すのか?」
「まさか」
 いよいよ哀れなものを見下す目で、ゾルタがラウルフィカを見る。
「完全に壊れてしまっては意味がない。あなたはどこまでも正気のまま、私たちに服従するしかないのです」
「なるほど。それが貴様らの一番の腕の見せどころというわけか。私に首輪をつけてどこまでも従順な犬のようにしつけると」
「良いお答ですよ、陛下」
 ゾルタは不意にベルを鳴らし、使用人を呼び寄せた。
「例の物を」
「こちらになります」
 手際良い奴隷の一人が差し出したものに、ラウルフィカは訝しげな顔をした。あれは何だ?
 腕環に見えるが、それにしては長さを調整する留め金が見あたらない。それなくして着脱できる仕組みにも見えない。
「あなたが口にした通り、これは首輪ですよ、陛下」
「何……」
「本当に首につけては寝苦しいでしょう。ですから、腕環にしました。ここにある文字が読めますか?」
 その文章を読んだ途端、ラウルフィカの頭が瞬間的に沸騰する。
 よりにもよってそこには艶麗すぎて読みづらい飾り文字の古文で、ラウルフィカがゾルタの所有物だなどと書かれているではないか。
「ふざけるな。こんなものをつけられるわけがない!」
「何度も言わせないで下さい。あなたに拒否権はありません。それともここから逃げ帰りますか?」
 杯を飲みほしながら、ゾルタは気だるげに言う。
「本音を言うと、パルシャ以外の者たちはこの国の権力などにさほど興味はないのですよ」
「どういう意味だ」
「我々はさほど真面目に生きているわけではありませんので。一族の発展にもこの国の平穏にも自らの進退にも興味はありません。死刑になりたがるほど捨て鉢ではありませんが、蟄居命令程度ならありがたく受け取って領地で自堕落な生活に耽る方がよほど楽で楽しいですよ。ですからあなた様がもしも本気で私たちを放逐しようと、私は嘆きも悲しみもしません」
 それがどういう意味なのか、ラウルフィカにもわかる。
「そう、国王陛下。この関係の鍵を握るのはいつだってあなたの方なのですよ」
「くそっ」
「私にはあなたのもたらす権力など必要ない。ですが、あなたには私の力が必要ではありませんか?」
 今ここでソルタに去られて困るのはラウルフィカの方なのだ。ゾルタはそう告げる。
「権力に興味がないのではなかったか?」
「権力に興味はありません、ですがあなたに興味はある」
 ゾルタは暗く笑う。
「あなたが私の足元に犬のように身を投げ出して服従する姿が、私を酷く高揚させる。そのためならば、私はこの国の宰相として君臨するのも悪くはない」
 目の前で苦悩する単純すぎるくらいに純粋な王子、いや、少年王が愛しい。この愛しさは、翅をもがれて死に向かうだけの小さな虫に対するような愛しさだ。
 玉座が手に入りそうで入らない、世襲宰相というむず痒い位置。しかも仕えるべき主君はこれほどに子ども。それがゾルタを苛立たせる。主君によく仕えよという父の言葉が鬱陶しくて仕方がなかった。こんなガキに仕えて何になる。
 そして彼は閃いたのだ。従うのが嫌ならば、従わせればいいのだ。そしてこの少年王自身の口から、どんな屈辱を与えられてもゾルタの力が必要だと言わせればいい。
 そうすれば長年の鬱屈は晴れる。ゾルタはそう考え、今度の計画を決行した。
 ラウルフィカは美しい。この美しい少年王を屈服させ自らの下に組み敷くのは、どんな美女を抱く時よりもゾルタを興奮させる。
 二日前は素晴らしかった。何も知らぬラウルフィカを犯した時のあの快感。きつすぎるほどの少年の身体は、どんな女の名器も敵わないだろう。
「さて、返答は?」
 ゾルタに笑顔で促され、ラウルフィカは歯噛みした。美しい唇が血の色に塗れる様まで艶めかしい。
「好きにしろ」
「言葉が足りないのではありませんか?」
 ラウルフィカの頬が恥辱に赤く染まる。
「わ……私を好きにしろ。好きにしていい」
「――我が君の御命令のままに」

 ◆◆◆◆◆

 ゾルタがまずラウルフィカにしたことは、少年王に首輪代わりの腕環をつけさせることだった。
「あなたがいつでも、私のものであることを忘れないように」
 腕環は溶接して、腕環自体を壊さなければ二度と外れないようにする。
「ああ、本当は首輪も惜しかったのですよ。この白い首を金の首輪が飾る姿はどれほど美しいか。けれど、外せない首輪はさすがに負担が大きいと聞きますからね」
 屈辱的な一文入りの腕環をつけられたラウルフィカは、憎々しげにゾルタを睨みつける。
「首輪は、本物をつけましょう。次にお会いする時のために、最高級の犬の首輪を探せましょう」
 ラウルフィカの青い瞳が、憎悪に燃えた。ゾルタは素知らぬ顔で、次の「遊び」に移る。
「私のことは、ご主人様と呼んでくださいね」
「ゾルタ! 貴様!」
「ご主人様、ですよラウルフィカ。あまり私を苛立たせるようなら私は領地に帰りますよ。私のことをご主人様と慕う可愛い奴隷たちがいる領地に」
 仮にも国王を呼び捨てにし、ゾルタは薄汚い期待の眼差しでラウルフィカが口を開くのを待つ。
 一瞬きつく目を瞑って何かを堪えるような顔をしたラウルフィカは、決意の眼差しで口を開き舌を動かす。
「ご……ご主人、様」
「もう一度」
「ご主人様」
「もう一度」
「ご主人様」
「私の名を」
「ゾルタ様……」
 青い眼差しこそきついものの、ラウルフィカは感情を殺してゾルタの求めに応じる。
「では、服を脱いでもらおうか」
「!」
「さぁ。ご主人様の手を煩わせる気ですか?」
 屈辱に打ち震えながら、ラウルフィカは前合わせの衣装に手をかける。
 肩から布地が滑り落ち、白い肌が露わになる。
「下もだ」
 下半身も下着まで脱ぎ、ゾルタの前で全てを晒す格好となる。
 脱げないのは、外せないのは先程つけたばかりの金の腕環だけ。
 恥ずかしいところまで全て見られて、ラウルフィカの身体が小さく震えている。この男の前で裸になるのは初めてではない。それでも、触れられることもなく裸身を晒し続けるこの緊張状態がラウルフィカには耐えがたかった。
「ふふ。大人しく言う事を聞いた奴隷へのご褒美に今すぐその身体を抱いてあげたいところですが、後ろはまだ回復しきっていないでしょう?」
 ゾルタの指摘に、ラウルフィカはびくりと震えた。彼の手により連れられた医師によって薬を塗られたとはいえ、つい三日前に引き裂かれた場所は回復にはまだ一日を必要とするだろう。
 あの時の痛みを思い出し、ラウルフィカの身体は恐怖に震える。どんなに意地を張っていても、肉体の苦痛はやはり怖い。
「今日は後ろを使うのはやめておきましょう。その代わり、可愛い犬に、ご主人様に奉仕してもらいましょうか」
「奉仕?」
 言葉の意味が、ラウルフィカにはわからなかった。
 ゾルタが衣服の前を寛げる。取り出された彼自身のものを指し、無情に告げる。
「舐めてもらいましょうか」
「え?」
「さぁ、おいで」
 ふらふらと近寄ったラウルフィカを、椅子の前に座らせる。
「口に含んで、丁寧に舐めるんですよ」
「な、な」
「よくあることです」
 ゾルタはぐい、と少年の頭を押して、その口に彼のものを含ませる。
「んん!」
「歯を立てたりしたら……わかりますね? さぁ」
 すでに立ち上がりかけたものを口に含まされて、ラウルフィカは苦悶の声をあげる。ここでゾルタを怒らせては元も子もない。含んだものの味やら何やらは強いて考えないようにして、必死で口の中のものを舐める。
「もう少し技術が欲しいのですがね」
 単調に舌を動かしているだけの拙い口淫に、ゾルタが呆れたような吐息を零す。
 到底少年の口には収まりきるはずもないものを含まされて、ラウルフィカの方は必死である。溢れた唾液や先走りの液が口の端からぽたぽたと零れて太腿を濡らすのを構う余裕もない。
「は……ぅむ……」
 ゾルタは頬杖などついたまま、ラウルフィカの舌技を味わっている。堪能するほどの技巧はないが、美しい少年、それも一国の王が自らの股間に蹲って必死で奉仕しているその姿だけで、滾ったものがはちきれそうになる。ああ本当に、首輪を用意できなかったのだけが心残りだ。
 艶やかな黒髪を乱暴に掴んで、ぐいと前に押す。
「ん――――っ!」
 ラウルフィカが唇を離して咳き込む。辺りに白濁が飛び散った。
「ごほっ、かはっ」
 喉を押さえて苦しむラウルフィカは、吐き気を抑えるのに精一杯でゾルタの動きに気づかなかった。
 ばしゃっと冷たい液体を頭の上からかけられてラウルフィカは呆然とした。
 酒臭い。黄金色の滴がぽたぽたと髪を、顎を伝って落ちる。
「洗って差し上げましたよ、陛下」
 ゾルタは空の杯を手に愉悦の笑みを浮かべていた。
「――いい姿だ」
 惨めなその姿こそが、何よりもラウルフィカを打ちのめしゾルタを喜ばせた。


3.媚薬

 ゾルタの部屋を訪れたその翌日は、同じく王宮内に存在するナブラの部屋へ迎えと指示された。
 昨日と同じようにしっかりと国王としての衣装を略式だが着込み、ラウルフィカはナブラの部屋を訪れる。今は比較的自由に歩いているラウルフィカだが、そろそろ警護役を決める必要もあるだろう。それまで王子としてのラウルフィカの警護をしていた人物は、ゾルタの手により別の部署に回されてしまった。
 きっとこの後はまたゾルタたちの手により、彼らにとって都合のいい人物をあてがわれるのだろう。騎士だけではなく、恐らく将来は伴侶も。
 冗談ではない。
 せめてそれまでには、それまでにはどうにか力をつけ、彼らから王国の支配権を取り返さなければならない。
 だが今はまだ、自分よりも有能なこの貴族たちの力が必要だ。
「どうぞ、お入りください」
 低く深みのあるナブラの声に促され、ラウルフィカは入室した。
 ゾルタの部屋とはまた違って豪奢な室内だった。色男のナブラは、一般人にとっては華美すぎると見える室内でも浮くことがない。
 国内最大の貴族は、やってきたラウルフィカに甘い笑みを向ける。女性ならば物心ついたばかりの幼女に妙齢の淑女、貴婦人から女盛りをとうに過ぎた老女まで虜にすると言われるその笑みは、しかしラウルフィカには通じない。
「早速ですが、服をお脱ぎください、陛下」
「くっ……」
 昨夜ゾルタの前で衣服を脱いだ時とはまた別の屈辱がラウルフィカを襲う。
「……ぷっ、あはははは! へぇ、これは宰相殿が? やりますな」
 案の定ナブラはラウルフィカの手首に光る金色の腕環を眺めて笑いだした。手招きしてラウルフィカを自分の傍へ寄せると、じっくりと腕環を見る。
 全裸よりも、腕をとられて屈辱的な一文の刻まれた腕環を見られることのほうが恥ずかしい。
「あの方がそんなにもあなた様に執着しているとは存じませんでした。良かったですね、陛下」
「何が良いものか」
 ラウルフィカの腕を撫でながら笑うナブラの姿に、ラウルフィカはただひたすら震えを堪える。
「さて、細かいお話はもう宰相殿がしてくれたでしょう? 早速今度は私との遊びにつきあっていただきましょうか」
 ナブラはラウルフィカを目の前に立たせたまま、机の上に幾つかの道具を広げた。
「宰相度には悪いですが、あなたにはその金の腕環よりも、こちらの方がお似合いですよ」
 よりにもよってナブラがまず持ちあげて見せたのは、黒い革の首輪だ。ラウルフィカは一気に不機嫌になる。
「まったくどいつもこいつも、人を見れば首輪をつけずにはいられないのか?」
「ええ。あなたが美しすぎるから、これは私のものだと名札をつけておきたくなるのですよ」
 ラウルフィカの言葉をあっさりと受け流し、ナブラは少年のうなじにかかる髪を梳きながら、さりげない手つきで首輪をはめてしまう。
「いっそ口枷が欲しいところですが、今日はこれと後もう一つで我慢していただきましょう」
 そしてナブラは、ラウルフィカに後ろを向かせた。
「っ……」
 白い尻の谷間を、長い指が撫ぜていく。入口辺りをむず痒くなるような柔らかさで触れた。
「先日の傷は治っているようですね」
 これで今日は心おきなく楽しめる――。そう言ったナブラが、ふいにラウルフィカの中に何かを押し込んだ。
「や! な、何を!」
「大人しくしてください、陛下」
 ナブラは片手でラウルフィカの腰を動けないようしっかりと固定し、もう片手で後ろに何かを詰めた。それほど大きくはなく痛みも今のところないが、異物感に苛まれる。
「や、やだ、こんなのっ、とって」
「駄目ですよ、これが後でお楽しみになるための大事な道具なんですから」
 後ろに詰まった何か、感触としては小さな錠剤らしきものを絶対にとってはならないと厳命し、ナブラはいったんラウルフィカの腰を離す。再び正面を向かせ、今度は机の上の壜を一つとった。
「それは……また、香油か」
「さぁ、どうでしょうね」
 先日使われた滑りを良くするための液体と、それはよく似ているように見えた。
 しかし壜は若干違うし、中身の液体の色も違う。
「似たようなものと言えば似たようなものでしょうね。どちらもこうして夜の遊びに使うものですし、これらはパルシャに売りつけられたものですし」
 パルシャ――ラウルフィカをはめた五人のうちの一人、ぶくぶくに肥った強欲な商人だ。
「ああ、ちなみに明日はパルシャのもとへ行っていただきますよ、陛下。ちなみに奴は王宮内に部屋を持っていないので、屋敷に朝から直接向かうこととなります」
「え?」
 そんな話は聞いていないとラウルフィカが言うと、液体の入った壜を揺らしながらナブラは説明した。
「あの男は私たちほど頻繁に王宮に来ませんからね。その分朝からあなたを屋敷に招いて一日中楽しもうというのですよ」
「な……」
「ま、そういう事情ですからあなたがあの男に呼ばれる頻度は他の者より少ないと思いますがね。あの男が王宮に用事をこなしに来たついでに相手をしろといえば断れませんが」
 見慣れた王宮内ですら廊下を歩く一歩ごとに惨めな思いを噛みしめているというのに、わざわざあの肉だるまに抱かれるためだけに外出しろと言うのか。ラウルフィカは怒りと絶望に、眩暈を起こして倒れそうになった。
「おっと」
 砕けた腰をナブラに支えられる。
「そんなに嫌がらずとも、あの男の容姿には目を瞑って、与えられる快感だけを楽しめばいいのですよ。商人の屋敷だけあって、夜の玩具には事欠きませんからね。新たな扉が開けるかもしれませんよ?」
「そんな扉は開きたくなどない!」
 ナブラの気楽な物言いにラウルフィカが反論すれば、くすくすと笑われる。
 そのまま抱きしめたラウルフィカの身体に、ナブラは先程手にした壜の中身をかけた。
「ひゃっ」
 ラウルフィカが冷たさに驚いたのは一瞬で、とろりとした液体はすぐに体温に馴染んだ。しかし主に性器へとかけられたそれは、何とも言えない感覚を伝えてくる。
「一体何を……」
 更にナブラはその液体を指で掬い取ると、乳首や後ろの穴の入口にも塗りつける。
「さて、ここでもう一つの枷の出番ですね」
 ナブラの意図はラウルフィカにはわからない。
 幅に余裕のある腕環を少し手首の上にずらすと、ラウルフィカに手枷をかけた。金の腕環をナブラは指でつまみ、ゾルタに文句を言うように一人ごちる。
「成長期の少年にこんなものつけて、陛下がそのうちこれがはまらないムキムキ筋肉になったらどうするんだか」
 もしそうなって彼らの興味を失わせることができるなら、そうなりたいものだとラウルフィカは思った。だが恐らく、以前筋肉がつきにくいと言われた少年の身体はこの腕環がはまらないほどの体格にはならないだろう。
 ナブラがとりつけた手枷には鎖がついていた。彼はそれを、天井の一部の鉤にとりつける。
「どうせならこちらも……」
 更に最初にとりつけた首輪にも鎖をつけ、ラウルフィカの身体を部屋の一角に固定した。天井から手枷につながった鎖の長さには限りがあり、ラウルフィカにはこの鎖を自力で外すこともできなければ、自分で自分の身体に触れることもできなくされている。首輪から伸びた鎖は、体の向きを変えることを許さない。
「さて」
 ナブラは先程一度拭いたはずの自分自身の手を、湯をくぐらせた布で更に完璧に拭っていた。香油に触った手を、何故そこまで厳重に今の時点で清めるのかわからない。
 どうせこれからまた、淫らなことをするのだろうに。
「これで、私からの今日の要求は終わりです」
「え?」
 今度は何をされるのかと内心で怯えながら、それでも覚悟を決めてこの部屋に来たラウルフィカは内心拍子抜けした。
「おや、もっと凄いことをされたかったのですか?」
「誰が!」
「でしたら。これで今日の私からの要求は終わりですよ。あとはあなたにその格好で数時間を過ごしていただきたいだけ」
「何も……せずにか?」
「ええ。私は何もしないし、あなたにもさせない。私からは」
 ただ、と思わせぶりな口調でナブラは言った。
「あなた様が、私にして欲しいと懇願なさるなら別ですよ?」
「そんなこと、あるわけがない」
 ナブラが暗い笑みを浮かべる。
「その強がりがどこまでもつのか、楽しみですよ」

 ◆◆◆◆◆

 数分して、すぐにラウルフィカはナブラの意図を理解することとなった。
「は……はっ」
 身体が熱い。熱が集まっている。
 いつのまにか後ろの異物感は消えていて、その代わりにどろりとしたものが溢れ出していた。内股を濡らすのは、性器にかけられた香油が溶けたもの。
 熱い。
「う……」
 熱い、そしてむず痒い。
 何もしていない、誰も触れてすらいない自身のものが昂ぶっていくのを、ラウルフィカは愕然と見つめた。
「な……んで」
 手酌で一人酒杯を傾けているナブラを見ると、彼は深い笑みを浮かべた。
「まさか、さっきの……」
 疼く場所は胸と下腹部、そして中だ。先程後ろに詰められた錠剤と、かけられた液体。あれは。
「御明察、陛下」
 言葉は皮肉の響きを持っていた。気づくのが遅い、と。
 先程ナブラがラウルフィカの身体に入れたものが、この反応を引き起こしている。
「これは媚薬だ。後ろに入れた方もそう」
 先程中身の半分をラウルフィカの身体にかけた壜をふり、ナブラが言う。
「は……う、ん……」
 ラウルフィカの唇からは、意図せずとも苦しげで悩ましげな吐息がもれた。下半身の感覚から意識をそらそうと頭を振ってみても、まったく効果がない。首や脇の下にじっとりと汗をかいている。
「う、うう……」
 こちらも触れられていないはずの乳首が、いまやぷっくりと充血して立っている。下半身には熱が高まり過ぎて、いまや痛いくらいだ。
 いっそ触れて、さっさとこの熱を解放してしまいたいくらいだ。だがラウルフィカの手は手枷に固定されていて動かない。どこかに擦りつけようと思っても、体の向きさえ首輪によって調整されてしまっていて、正面には何もない。
「ああ……!」
 むず痒い。足を擦り合わせたいが、鎖の長さがぎりぎりで、そんなこともできない。はかない抵抗に合わせて、手枷や首輪につけられた鎖がカチャカチャと音を立てる。
 そんなラウルフィカの痴態をまるで酒の肴にするかのように眺めていたナブラが、ふいに口を開いた。
「陛下」
 のろのろと顔をあげてそちらを見、ようやくこの男の存在を思い出したラウルフィカに告げる。
「僭越ながら、あなた様が望むならこのわたくしめがその苦しみから解放してさしあげましょうか?」
 つまりは、抱いて、犯してほしいと自分に泣きつけと彼は言っているのだ。ラウルフィカの頭に血が昇った。
「結構だ!」
 自分をこのような事態に追い込んだ張本人に泣きつくなど、ラウルフィカの矜持が許さない。ナブラは先程、今日はこれで終わりだと言った。それならばこのまま朝まで耐え抜けば、彼に触れられずに終わるのだ。
「強情な方ですね。苦しみを長引かせるご趣味でも? ああ、それとも、焦らされた方が後の快楽が増すから?」
 くすくすと笑うナブラの声を阻むように目を閉じ、ラウルフィカは全てから逃げるように顔を背ける。
 だがもちろん瞳を閉じただけで、この現実から逃れられるはずもない。むしろ視角を封じた分、ナブラの声ばかりが鮮明に届く。
「無理をするものではありませんよ、陛下。熱くて、むず痒くて、もどかしいのでしょう。ほら、あなたのものだってこんなに元気で」
「ふああ!」
 身体の一か所に電流が走ったかのような衝撃を覚えた。
 いつの間にか近寄ってきていたナブラが、いまにもはちきれそうなラウルフィカのものに指の先で触れたのだ。それだけであまりにも強すぎる刺激に、ラウルフィカは悲鳴をあげた。
「な、きょ、今日はもう何もしないと!」
「ほんの少し触れただけですよ。あなたは道端で肩がぶつかった相手を誰も彼も投獄するような暴君なのですか?」
 そう言ってナブラはすぐに手を離す。
「けれどこれ以上はさすがにやりすぎとなるでしょうね。あなた様の許しがなければ」
 ナブラはラウルフィカの肩に手を置く。
 男らしい節くれだった指の感触に、肩がびくりと震えた。
「どうです? 陛下、あなたはこのままずっと耐える気ですか? それよりも、この指で乳首を捏ねられ、前を愛撫され、後ろを思いっきりかき混ぜられたくはありませんか」
「や、やめろ!」
 それは今まさに考えていたことで、ラウルフィカはナブラの手を振り払おうと思い切り頭を振った。しかし手枷や鎖がカチャカチャとなるばかりで、肩を掴むナブラの手にはますます力がこもる。
 それどころか、ナブラは肩に置いたのとは別の手でラウルフィカの頭を固定するように顎を掴んできた。背後から抱きつく形になり、触れた衣服の皺までもが今のラウルフィカにとっては耐えがたい刺激となる。
「はっ、はっ」
 ナブラに固定された顎がひっきりなしに震えて熱い吐息をもらす。
「ただ一言、私にお願いするだけでいいのですよ、陛下。たった一言で、あなたを極楽に連れていって差し上げます」
「い……嫌だ! そんな、矜持を捨てるような真似は……ああああ!」
 この期に及んで強情なラウルフィカの胸の突起を、ナブラは乱暴につねり上げたのだ。
「ひぃ!」
 悲鳴をあげながらも、ラウルフィカの身体は待ち望んだ刺激に歓喜を露わにする。
「あ、あ、ああ、あ」
「どうします? 陛下。ただ一言でいいのですよ?」
 鞭で打たれたわけでも、頬を張られたわけでもない。けれど、この甘い疼きは何よりの拷問だ。
「……て」
「なんです?」
 息も絶え絶えに小さな声で言ったラウルフィカの言葉を、ナブラはわざとらしく聞き返す。
「お、ねがい」
「だから、何を願うんです? 私にどうしてほしいと?」
 ラウルフィカの耳元でその素晴らしい美声を聞かせながら、ナブラは意地悪く尋ねる。
「さぁ、私にどうして欲しいのか、あなたの可愛い口から、はっきりと聞かせてくださいね」
「う……」
 ラウルフィカは悔しさと苦しさに目元に薄らと涙を浮かべながら、ついに服従の言葉を口にした。
「お、お願い。お前のもので、私を……」
「あなたを?」
 消え入りそうな声で、ラウルフィカは望みを告げた。
 ナブラが笑みを深くして、気取った口調で応える。
「お望みのままに、我が君」
 ふざけた物言いは、ゾルタとそっくりだ。宰相とこの大貴族は表向き似たようなタイプのようだ。
 ナブラは自らのものを取り出すと、すでに媚薬に濡れたラウルフィカの中へ一気に突き入れた。
「――っ!」
 声のない悲鳴、否、嬌声をあげてラウルフィカはナブラに身を任せる。固定された身体をいいようにナブラに持ちあげられ、揺さぶられた。
「あ、ああ! あああああああ!」
 媚薬の効果で痛みはなく、昂ぶった身体はただただ待ち望んでいた刺激に甘い声をあげる。
 わずかに二、三度前をしごかれただけで、ラウルフィカはあっさりと達した。しかも恐ろしいことに、それでもまだ身体は熱を持ったままだった。
「な……んで」
「媚薬の効果ですよ。まだまだ満足できないようですね」
 体勢を変えるためにと、ナブラがこれまでラウルフィカの身体を固定していた鎖を外す。
 しどけなく床に倒れこんだラウルフィカの身体に彼は覆いかぶさった。
「夜はまだ長い。たっぷりと楽しみましょうね」
 媚薬の効果は長いこと切れず、ラウルフィカは一晩中甘い嬌声をあげ続けた。


4.玩具

 一晩中ナブラに弄ばれたせいで眠気がとれない。
 だがこれぞ媚薬の効果ということか、体力は意外なほど残っていた。ナブラに言わせれば、あらかじめそうなるよう調整の上でラウルフィカを弄んでいたらしい。
 そして現在、ラウルフィカはナブラとゾルタという実に気まずい面々と顔を突き合わせながら馬車に乗り、大商人パルシャの屋敷へと向かっている。
「眠っていていいのですよ、陛下。昨夜はお疲れでしょうから」
 からかうゾルタの声にきつい眼差しを返し、ラウルフィカは二人と視線を合わせないためにひたすら窓の外を見ていた。
 城下はすこぶる穏やかで、争乱の気配一つない。わかっている。今のラウルフィカの力では、この景色を自分一人で維持する事はできない。
 だからと言って、金銀財宝でも他でもない自分自身の身体を他者に差し出して安寧を買う行為には吐き気がする。それでも他に選択肢はない。
 パルシャは王城の近くに屋敷を構えていたために、目的地にはすぐに着いた。ナブラとゾルタは別室で話があるのだと先に案内され、ラウルフィカだけが屋敷の奥まで連れていかれる。
「ようこそ、我が屋敷へ。ラウルフィカ陛下」
「能書きはいい。さっさと始めろ」
「話の早いことで。宰相殿と貴族長官殿から何か言われましたかな?」
 ぐふぐふと醜い笑いを見せつけるパルシャの顔は、潰れたヒキガエルによく似ている。
 足元に幾つも散らばった小箱の中から、何かを取り出して顔の傍に寄せた。
 男根を模した張型だ。パルシャはそれをべろりと舌で舐める。
 あまりの気色悪さにラウルフィカは一歩引いた。震えだす身体を自分の腕で抱きしめる。
「この日のために、あらゆる道具を準備させました。きっと陛下もお気に召すでしょう」

 ◆◆◆◆◆

「う……」
 少年の尻の白い谷間に、潰れたヒキガエルのような男が顔を埋めている。
「は、はなせ……」
 肛門に鼻を押し付けられて、ラウルフィカは凄まじい背徳感と気色悪さから、弱弱しい声をあげた。人の顔を尻の下に敷くような趣味はない。ましてや自らの臀部に男が顔を埋めるなど考えたこともなかった。
 しかしパルシャは、ラウルフィカの肉付きの薄い尻に頬を挟んで恍惚とした笑みを浮かべていた。
「ううん、良い香りだ、陛下。ナブラ様に渡したあの薬を使ったのですね?」
 ラウルフィカは手首を抑えられて動くこともできずに、ただ昨日のナブラとの行為を思い出す。直腸に挿入された錠剤、性器にかけられた媚薬入りの香油。
「おいしそうなお尻だ」
 少年の白い双丘に頬ずりをしたパルシャが言う。ひたすら恥辱を耐えていたラウルフィカは、突然尻に走った衝撃に思わず声をあげた。
「ひぁ!」
「ふふふ、柔らかくて気持ちよくて、このまま食べてしまいたいなぁ」
 パルシャが尻の肉を甘噛みしたのだ。ほとんど痛くはないが、まさかそんなところを噛まれるとは思わずラウルフィカの頭は真っ白になる。
 ただでさえ先程パルシャも言った通り、昨夜ナブラに媚薬を仕込まれ散々弄ばれた身体の疼きは収まっていないのだ。太りきったパルシャの指が尻を揉み、肛門を撫でるたびにラウルフィカの身体は刺激に耐えきれずびくびくと震える。
「ひっ、あ、もう、本当にやめ」
 ぐりぐりと指先を後ろの入口に押し付けていたパルシャに哀願するが、悪徳商人は素知らぬ顔で指を捏ねくり回す。
「やめて? 指はいやですかねぇ陛下」
「もう、はなし……」
「だったらこれでどうかな?」
「ヒャ!」
 生温くざらついたものが、後ろの蕾へと触れる。
「ひっ! や、やぁ! 離せ! 離してくれ!」
 ラウルフィカは必死でパルシャの手を振り払おうとするが、力が入らなかった。パルシャの舌が、更にちゅぷちゅぷとラウルフィカの入口を舐める。
 軟体動物のような舌先が蠢いて、中に押し入って来る。
「やめて……うぁ……」
 昨夜ナブラに散々突き入れられたものよりはずっと小さくて柔らかいものなのだが、その未知の感触はラウルフィカを追い詰めるのに十分だった。
「やめて、やめてっ……気持ち悪い、お願い、別のにして!」
 ここ数日立て続けに遭わせられた辱めに、王と呼ばれてはいてもまだ十三歳の少年であるラウルフィカの心は限界だった。
 ちゅぷ、と名残惜しげな音を立てて、パルシャの舌が離れていく。ラウルフィカは耐えきれずに膝を落とした。パルシャに尻を向けた格好のまま、傷ついた獣のように蹲る。
「う……」
 じわりと目に涙が浮んだ。
「おや、陛下? ラウルフィカ様?」
 ラウルフィカの白い尻たぶを指先で撫でていたパルシャが怪訝な声をあげ、蹲るラウルフィカの顔を覗き込む。
「そんなにお嫌でしたか? 陛下の御為ですのに。ああ、よしよし、泣かないでくださいな」
 小さな子どもをあやすようなパルシャの口調に、ラウルフィカの口から幼児のようなたどたどしい言葉がもれる。
「もう……やだ。わけわかんない、気持ち悪い事ばっかり、ヤダ……」
 父王の死からはじまり、五人の男に凌辱され、ゾルタに抱かれナブラに抱かれ、今またパルシャの手で弄ばれ。
 いくら年齢の割にしっかりとした少年と言えど、ラウルフィカの精神は限界に来ていた。年端もいかぬ子どものように、みっともなく声を荒げて泣いてしまいたい。どうして自分がこんな目に遭わねばならないのかと、自分一人が世界で一番不幸な人間であるかのような顔をして喚きたい。
 理性でそれを抑えこんでしまうのが、ラウルフィカの不幸だった。ゾルタやナブラに対しては国内の有力貴族として警戒しようと懸命に気を張り詰めていたが、今ほとんど面識のないパルシャにまで犯されて、自分が何のためにこうしているのか、何故こんなことをされなければならないのかわからなくなってしまった。
「もういや……やだ……」
 ぽろぽろと涙を流してしゃくりあげるラウルフィカに何を思ったか、パルシャは少年の身体を抱え上げると、胡坐を掻いてそのでっぷりした膝の上に座らせた。
「……泣いたところで仕方がありませんよぉ、陛下」
 パルシャはぽんぽんと軽くラウルフィカ肩を叩き、幼子を宥めるように言い聞かせる。しかしその言葉の内容は優しさや救いとは正反対のものだった。
「例えわしやザッハールが手を引いたとしても、宰相様とナブラ様は手を止めないでしょう。ミレアス殿もだ。あの方は酷い加虐趣味で、裏で密かに何人もの少年少女を殺している」
 まだ涙を流しながらだが、ラウルフィカはパルシャの言うことを大人しく聞いていた。
「わしら五人が手を組むことによって、ようやく均衡が作りあげられているのですよ。宰相様一人があなたを手に入れたなら、あなたはもっと過酷な運命に晒されることとなったでしょう」
 だから、とそれまで優しくラウルフィカの身体に添えていたパルシャの手に力が込められる。
「あなたに出来るのは一つだけ。せいぜいあの男たちの機嫌をうまくとることです」
「そんなの……」
 ラウルフィカの僅かな抵抗の言葉は中途で途切れた。パルシャに再び、柔らかな絨毯の上へと押し倒される。今度はうつ伏せではなく仰向けだった。
 のしかかる男の顔が、嫌でもよく見える。その口元が歪な欲望に微笑んでいるのも。
「大丈夫ですよ、陛下。あなたのお身体は、男たちのどんな要求にも耐えられるようわしが“開発”してさしあげますから」
「な、何を……」
 見下ろしてくるパルシャの笑みの不気味さに、ラウルフィカは凍りついたように動けなくなる。
「ほら、これ。なんだかわかりますか?」
 いつそんなものを引っ張り出したのか、パルシャはその手に何か道具を持っていた。
「そ……」
 男根を模した、おぞましい道具だ。しかも並の男のものよりも大きく作られている。
「これで慣れれば、他のどんな男に何をされたところで動じない人間になれますよぉ」
 ぐふぐふと笑いながら、パルシャは張型をラウルフィカに見せつける。ぴたぴたとそのおぞましいもので頬を叩かれて、ラウルフィカは蒼白となった。
「や……やだ! そ、そんな大きいの入るわけない!」
「入りますよ。いずれは、このくらいじゃないと満足できないようなお身体になってもらうつもりなのですよ」
「いや……」
「大丈夫、時間はじっくりありますから」
「いやだぁ!」
 身も世もなく悲鳴をあげて逃げようとしたラウルフィカを、パルシャが簡単に抑えこむ。少年としても華奢なラウルフィカに、肉だるまのパルシャが押しのけられるはずもない。
「大丈夫……大丈夫ですよぉ、陛下」
 パルシャの手が何か小さなものを持ち、無理矢理ラウルフィカの口の中に押し込む。
「はぅ……む、うう……」
「飲んでくださいよ、あなたのためですよ」
「ん、んー!!」
 吐き出そうにも口を押さえられ、小さな粒を出すことができない。
「これは媚薬ですわ。多少の痛みも快感に変えてくれる便利な道具です。さぁ!」
 口どころか鼻まで塞がれ、息を詰められる。ラウルフィカの抵抗も虚しく、小さな薬の粒は嚥下された。
「はっ、はっ」
 解放されたばかりで荒い息をつくラウルフィカの身体に、早速変化が現れる。昨夜ナブラに塗りつけられた媚薬の効果もまだ完全に消えていないというのに、身体を苛む熱が更に高まった。
「あ……」
「ほらほら、熱いでしょう? 身体が疼くでしょう?」
 全身が敏感になり、肌を撫でる室内の空気さえ今ならば感じ取れそうだ。そして昨夜ナブラに荒らされた場所が、じんと熱を持って疼きだす。
「うぅ、やだ……」
「さぁ、陛下」
「ああっ!」
 パルシャにへその辺りを撫でられただけで、思わず高い声があがる。
「やだ、やだぁ……」
 じんじんと疼く体がまるで自分のものではないように感じられて、ラウルフィカはまたもむずがる幼児のような声をあげた。
 身体のどこもかしこも熱くて、疼いて、何も考えられなくなる。ナブラに昨日散々弄ばれた場所がじわじわと痒みのような熱に侵される。
「あ、あ、あ」
 熱を持つ部分を思い切り掻きまわし、掻きむしりたい。そう思って反射的に伸ばした手が掴まれた。
「駄目ですよぉ、陛下。お一人で楽しむなんて」
 言ってパルシャは、ラウルフィカの腕をひとまとめにして押さえこんだ。
「だって……だって!」
 全身を苛む感覚が辛く、それから解放することも許されずに思わず再びしゃくりあげたラウルフィカの耳にぱくりと軽く噛みつきながら、パルシャが耳元で言う。
「ああ、可愛い。可愛いなぁ。陛下、あなたの苦しみは、わしが取り払って差し上げますぞ」
 そう言ってパルシャは、手元に引き寄せた箱の中をがさごそと漁る。すでにまともにものを考えられなくなっているラウルフィカは、熱い息を吐きながらぼんやりとそれを見ていた。
「最初はこんなものだな」
 差し出されたのは、先程見せられたものよりは小さい張型だった。それでも成人男性の標準的な性器と同じくらいの大きさはあるのだが、差し出されたものが先程の太すぎる張型でなかったことにラウルフィカはひとまずほっとした。
「さぁ、これを舐めてくだされ」
「は、ぅむ……」
「先程の慣らしは、陛下が嫌がられるもので途中となりましたからなぁ」
 目の前に押し付けられたそれに、意識が熱で朦朧としているラウルフィカは反射的に吸いついた。金属で出来た張型は、鉄の味がする。
「うん……あ、はぁ……ふむ……」
 舐めても舐めても決してふやけることのない鉄のそれをラウルフィカがたっぷりと唾液で濡らすと、パルシャはすいとそれをラウルフィカの口元から遠ざけた。
 ひくひくと小さく動いて何かが押し込まれるのを待つ後ろの蕾に、ラウルフィカ自身が唾液で濡らした張型を押しあてる。
「あ、うぁ、ぁああああああ! ああああ!」
 ずぷずぷと中へ押し込まれるそれに、ラウルフィカは悲鳴というには高い声をあげた。昨夜幾度となく男のものを受け入れさせられて慣れた身体に媚薬、そしてこれまで味わったことのない張型の感触に、未知のものへの恐怖と同時に挿入の歓喜で応える。
「ああ、あ、ああっ、やああああ!」
 パルシャの手は休まずに金属の丈夫な張型をラウルフィカの中に出し入れし続ける。
「こんな、こんな道具なんかでぇ……!」
 鉄の塊は人体とは比べ物にならない強度で、無慈悲に少年の中を犯し続ける。その感触は数日前から昨夜にかけて受け入れてきた男たちのモノとはまた違い、ラウルフィカを戸惑わせた。
「ぐふふふ、気持ち良いか? 男に抱かれるのとはまた一味違った楽しみじゃろう」
 じゅぷじゅぷと音を立てながら何度も何度も張型を行き来させ、パルシャはラウルフィカを喘がせる。
 次第に金属の重量感や異物感にも慣れてくると、それはラウルフィカにとって未知のものではなくただ快感を与えてくれるための道具となった。
「あああ、ふぁ、ぁああ……っ」
 中に入れられた張型は体温で温まり、卑猥な水音をさせながら出したり入ったりを繰り返す。つるつると滑らかな金属面はいつまでも異物感を忘れさせてはくれず、自分がよりにもよって無機物にいいように犯されているのだという屈辱と背徳感を与えた。
「うう、なんで……」
 だがそのもどかしさすらも今のラウルフィカには快感にしかならず、今まで触れられていなかった自身から先走りの液をぽたぽたと垂らす。腹の上が、自らの流した液体で濡れた。
 パルシャはすでにラウルフィカの腕を押さえこんではいない。しかしラウルフィカは抗いもせず、自分から足を広げてパルシャの手に寄って張型が挿入されるのを受け止めていた。
「あ、ああ……ッ!」
「ぐふふふ、可愛い。ああ、可愛いものじゃ……」
 後ろを張型で犯されて、ラウルフィカはついに射精まで導かれた。
「そ……な……」
 パルシャが金属の張型を抜く頃には呆然とした瞳で床に横たわっている。
 前を触ることすらされず、後ろだけで達してしまった。挿入するのではなくされる側となって、力ない女性のように犯された。
「どうだね? うちで扱っている媚薬は凄いだろう?」
 パルシャはけたけたと笑いながら、次の玩具を取り出した。
「さぁ、今度こそこれだ」
「あ……」
 それは一番最初に見せられた、男性平均の男根より遥かに大きい張型だった。力の入らない腰を引きずりながら、ラウルフィカは絨毯の上を必死に後ずさる。
「い、いや」
「大丈夫、今のあなた様ならこのくらい簡単に入るはず」
「いやだ!」
 ラウルフィカは立ち上がり逃げようとした、しかしその瞬間、腰から下に力が入らず床に倒れ伏す。
「うぁ……」
「いい格好ですよ、どうせならそのままで」
 咄嗟に手をついて顔や頭がぶつかるのを庇ったラウルフィカは四つん這いの姿勢になっていた。パルシャは必死で立ち上がろうとするラウルフィカの背後に回ると、ついにその巨根の張型を挿入する。
「あっ……あ、が、ぁあ……ッ!」
 先程中をかきまわした鉄の張型とは比べ物にならない質量のものが押し入って来る。今度はパルシャも慎重で、おぞましい玩具を一気には突き入れずゆっくりとラウルフィカの中へ埋めていった。
「ひぐ……ぅ、うう、う――!」
 身体の中に太い杭を打ち込まれたように、ラウルフィカは動けない。尻をパルシャに晒したまま、身体を支える腕を震わせて呻く。
「まだ半分ほどですよ、陛下」
「半……こ、これでっ!? うぁあ、があ!」
 これまで中に入れられたどんなものより、その玩具は太くて長かった。ギチギチと身体が軋む。
「あ、ヒィっ、あ、ああ、あ」
 虫が這うような速度で、ずぶりと張型がラウルフィカの身体の中に沈み込む。
「も……やめ、それ、以上は……」
 直腸はとうに限界で、異物感は腹の辺りまで達している。
「言ったでしょう、まだ半分だと。もっといきますよ、陛下」
「うぁあああああ!」
 パルシャは容赦せず、桁違いの太さと長さを持つモノをラウルフィカの中へと押し込んだ。
「かはっ、は、はぁ……!」
 下腹の辺りが苦しくて悦楽どころではない。これまで高められた熱が、腹の苦しさに急激に冷えていく。
「ぬ、いて……おねが……」
 埋め込まれたあまりの質量に、ラウルフィカは舌を出して苦痛に喘ぎながらパルシャに懇願した。
「駄目ですよぉ……ん?」
 苦しむラウルフィカの様子を見て笑っていたパルシャが、ふいに部屋の外から呼ばれて声をあげた。
「何用だ。今は誰も入れるな、声をかけるなと言ったはずだ」
「ですがご主人様、レネシャ様が……」
「! 馬鹿者!! 今はあの子をこの部屋に近付けるな! いいか、絶対だ!」
 後ろを犯すモノの質量に朦朧としながら、ラウルフィカはそのやりとりを聞いていた。“レネシャ”という名前を聞いてパルシャが顔色を変えている。
 やがて声を潜めて二言三言執事と話すと、パルシャは戻ってきた。
「さぁ、お待たせしました陛下。そろそろ大きさにも慣れた頃でしょう。動かしますよ」
「いやあ!!」
 この後も更に様々な玩具や器具を押し込まれ攻め立てられて、ラウルフィカはこの時に聞いたやりとりを大分先まで思い出すことはなかった。


5.暴力

 バシッと強く横面を張られる。
「ミレアス! いきなり何を乱暴な!」
 呆然と床に尻もちをついて頬に手をあてたラウルフィカの背を、ここまで彼を連れて来たパルシャが支えた。背の高い鎧姿の男を、非難の眼差しで見上げる。
 パルシャの屋敷で過ごしたその日の夜、ラウルフィカは王宮に戻り、そのまま軍人・ミレアスの部屋へと連れて行かれた。
 ここは城の中の一角で兵士たちが使用する兵舎の中の一室だが、立場のあるミレアスの部屋は他の兵士たちの部屋よりも広かった。隣の部屋とも距離があり、多少の物音を立てても気に留める者はいない。
 王宮内の兵舎と言えば人は堅牢な警備の様子を思い浮かべるが、実際のベラルーダの兵舎の警備は意外なほどに杜撰だ。一般兵はもちろん凄腕ともてはやされる軍人も暗殺の危険などに晒される機会は少なく、同じ王宮内部でも王族の寝所と比べて警戒は驚くほど薄い。
 つまり、この部屋で騒いでも誰かが気づく可能性は少ないということだ。
「今日は俺の番だろ? 何をしたっていいはずだ」
 じんじんと熱を持って痛み始めた頬を手で押さえながら、ラウルフィカは思わず怯えの色を走らせた瞳でミレアスを見上げた。
 初日に五人の男に代わる代わる抱かれ、これまでゾルタ、ナブラ、パルシャの三人に様々な性的な攻めを受けてはきたものの、ここまで純粋な暴力に晒されたのは今回が初めてだ。
 一応手加減はしたのだろう、ミレアスに張られた部分は痛みこそ酷いものの、口の中が切れたり歯が抜けたりなどはしていない。
 それでも今まで剣の訓練以外で暴力や敵意に晒されたこともない少年にとって、突然理由もなく顔を殴られたのは随分な衝撃だった。
「王様を殴れる機会なんてそうないんだ。楽しませてくれたっていいだろう?」
「顔はやめろ顔は! 誰かに気づかれたら事だぞ」
 怯えを見せるラウルフィカに、武骨な軍人の威嚇するように嗜虐的な笑みを見せながらミレアスが言うのを、パルシャが嗜める。
 しかしそれはラウルフィカを気遣った上での発言ではない。あくまでも暴行のことが知られて自分たちの立場を失わないようにするためだ。
「死なない程度なら、あの魔術師のガキが何とかするさ」
 魔術師のガキとは、宮廷魔術師長のザッハールのことだ。ラウルフィカからは十分に大人に見える二十一歳の青年も、ミレアスから見れば若造に過ぎない。
「他の三人がどれだけ優しくしてやったかは知らないが、俺はあんたを甘やかす気はないんだ。肩書だけ立派で無力なお坊ちゃんは、せいぜい俺の肉人形として可愛がってやるさ」
「いっ……!」
 ミレアスは乱暴にラウルフィカの腕を掴むと、寝台の上に叩きつけるようにして放り出した。
「さっさと出て行け、商人。あんたは散々この身体を味わったんだろう? 俺はこれからお楽しみの時間だ」
 手を振ってパルシャを追いだし、ミレアスはラウルフィカへと向き直った。眉根を寄せたパルシャは幾度も振り返りながらも、結局は何も言わずに部屋を出て行く。
 身体の両脇を手で押さえこみ、寝台の上から逃げられないようにした上でミレアスはラウルフィカへと声をかけてきた。
「よぉ、王様」
 にやりと笑う瞳には、危険な色が宿っていた。黙っていれば精悍な顔立ちの男なのだが、今は嗜虐的なその嗤いがいやらしい印象を与えてくる。
「この前は俺が楽しもうとしたら、他の奴らに止められたからな。今日は一対一だ。誰も口は挟まない」
 そう言ってミレアスは、いきなりラウルフィカの着衣に手をかけ力任せに引きちぎった。
「何をッ!」
 これまでの男たちは、少なくとも無理矢理服を剥ぐような真似はしなかった。初日にザッハールが服を脱がせた手つきももう少し優しかった。しかし今回は、引っ張られた布地に身体が揺さぶられるほど乱暴に着衣を破られる。
「服の一枚や二枚ケチケチするなよ」
 ミレアスが舌舐めずりする。服を破かれたラウルフィカは、ミレアスの瞳に宿る獰猛な光に射すくめられる。
「あ……」
「綺麗な顔してるな、王子。いや、王様」
 ラウルフィカの腫れていない方の頬を撫で、ミレアスが目を細めて嗤う。衣服を破かれて露わになった胸板や鎖骨、白い太腿へと視線を落としていく。
「細い身体だな。まるで女みたいだ」
 もう何度目かわからない侮辱の表現に、ラウルフィカはきつく目を閉じることで耐えた。しかし次の瞬間、先程撫でられた頬に衝撃が来る。
「誰が目を閉じていいって言った? しっかり開けてろよ」
 再び顔を張られて呆然となったラウルフィカに、ミレアスは冷酷に告げる。
「どうしても目閉じてたいって言うなら、それでもいいけどな」
 じわりと涙が浮んだラウルフィカの目元に、ミレアスは細い布を近付ける。
「な、何をす……やめろ!」
 その布が自分の目元を塞ごうとしているのに気付き、ラウルフィカは抵抗した。先程は目を閉じることで全てを拒絶したかったのに、今はそうされるのが酷く怖い。
 しかし少年の細腕での抵抗を軍人はものともしなかった。儚い抗いを楽しむように口元に笑いを乗せたまま、ラウルフィカに目隠しをする。
「あ……」
 一音呟いたきり、ラウルフィカは声を失った。
「視界を奪われると、人は恐怖でろくな抵抗ができなくなる。声も出しにくくなるそうだ」
 もちろんこのままでも、声を出そうと思えば出すことができる。ラウルフィカは口まで塞がれたわけではないのだから。
 けれどそうして一言口にした後、どこから何をされるのかわからない。その恐怖がラウルフィカから声を奪う。
「ひっ!」
 ふいに、生温かいものが首を這った。濡れてざらついた熱いもの。ミレアスの舌だ。
「細い首だな」
 歯で首筋をなぞりながら、ミレアスが忍び笑いをもらす。
「このまま噛み切れそうだ」
「……!」
 ラウルフィカは言葉も出ない恐怖に襲われ、ただひたすら息を詰める。ミレアスの指が、舌が、どこから来るのかわからない。動けない。声が出せない。自らの潜めた息づかいや、脈打つ鼓動さえ煩いと叱られないだろうかとの怯えがラウルフィカの行動を制限する。
 そのうちに、ミレアスが一度寝台から離れた。束の間ほっとしたラウルフィカだったが、すぐにそれは甘い考えだったと知ることになった。
 風を切る音がする。
「ヒィ!」
 パシン、と乾いた音がした次の瞬間、胸元に鋭い痛みと熱が走った。
「あっ……! い……」
「鞭を味わうのは初めてか? 王子様」
 上からミレアスの声が降って来る。
「綺麗なもんだ。白い肌には、鞭の紅い痕がよく映える」
 そう言ってミレアスはもう一度その凶器を振りおろした。
「ヒィ!」
 目隠しのせいで自分の身体がどんな状態になっているのかもわからない、逃げられないラウルフィカはそれをまともに受けた。
「いた……いた、痛いぃいい!」
「ああ……いい声だ。もっと悲鳴をあげな! もっとだ!」
 ラウルフィカは脇腹に衝撃を感じた。軽く持ち上げるようにして蹴られ、寝台の上を転がされる。彼本人には見えないが、ミレアスに背を向ける姿勢となった。
「あ、い、痛……」
 そのまま転がされたラウルフィカは、腕を突っ張るようにして上体を持ち上げた。膝も立て、胸の傷が直接寝台に触れないようにする。
 しかしその姿勢は、ミレアスにとっては目の前で尻をあげて四つん這いになる卑猥な姿勢としか映らなかった。はじめに破かれた布地はもはや腕に切れ端が巻き付く程度となり、白い臀部が隠すものもなく晒されている。
「これでも随分手加減してるんだ、俺は」
 鞭を手放して、ミレアスは目の前の白い双丘に触れた。太腿を抱え込むような体勢になる。
「こんな体勢で、誘ってるのか?」
「え……?」
 ラウルフィカには、今自分がどのような格好をしているかという自覚はない。
「誘ってるんだろう? 淫乱な王子様だな。さっきのがそんなに気持ち良かったのか? 実はマゾだったんだな」
「なっ……!」
 浴びせかけられる侮辱に、ラウルフィカの頬が瞬間的な怒りと羞恥で朱に染まった。
 だがやはりその怒りも長くは続かない。パン! と乾いた高い音が響く。
「あっ!」
 何をされたのか一瞬わからなかった。
 尻の辺りにじんと熱が集まったことで、ようやくラウルフィカの中に理解が広がる。その瞬間、彼はミレアスに足を抱え込まれながらも暴れ出した。
「よ、よくも、よくもっ」
「あぁ?」
「尻を打つなんて、そんなこと誰にもされたことがないのに……! 貴様のような者がっ」
「は?」
 ラウルフィカにとっては、その行為は本の中で親が幼児に対して仕置きの意味ですること以外になかったのだ。少年の勘違いに思い至ったミレアスは、呆気に取られて笑いだす。
「くくくっ、そういうことか」
「何がおかしいっ!」
 目隠しの恐怖も忘れ、必死に身をよじって怒鳴り返すラウルフィカの尻を、ミレアスはもう一度叩く。
「あうっ」
 続いてもう一度、更にもう一度。乾いた音が室内に響く。ラウルフィカは憎まれ口も恨みごとも叩く余裕なく、臀部に衝撃が走るたびに短い悲鳴をあげた。
 バシ、バシ、と次第に容赦なく力を込めて、ミレアスは少年王の白い尻に赤い手形を刻んでいく。
「はぅ、ぁが、ひぎぃ! ヒィ!」
 叩かれるたびに患部が熱く熱を持ち、次の責苦の痛みを増す。
「いた、痛いぃいい! やめて! おねがい! 許して……!」
 これまでに自分を弄んだ三人が与えたものとは比べ物にならない苦痛に、とうとうラウルフィカは泣いて赦しを請うた。
「もうやめて……! 赦して……」
 真っ赤に腫れた尻がじんじんと痛む。滲んだ涙は目隠しの布に吸われていった。痛みを堪えるため、手は敷布をきつく握りしめている。
 ミレアスがようやく尻を叩く手を止める。
 そもそも自分が赦される前に、このような責苦を受けるようなことを何もしていないということさえ、ラウルフィカの頭からは抜け落ちてしまったようだ。
「赦してほしいか、王子様」
「は、い……赦してください……」
 自然と丁寧な言葉遣いになるラウルフィカの弱弱しげな様子に、ミレアスが口の端を吊り上げて笑う。
 腫れて真っ赤になった尻を手で強くつまんだ。
「ヒィイイイッ!」
 ラウルフィカが喉をのけぞらせて一際高い悲鳴をあげる。
「いた、痛い、いやぁああああ!!」
 散々打たれて真っ赤になった尻をつねられ、ラウルフィカの身体には激痛が走った。
 目隠しをむしり取られる。後から後から涙が零れて来た。
 身も世もなく泣きだす少年の姿に、それがこの国の王の姿だということに、ミレアスの嗜虐心はますます刺激された。
「ごめんなさい! もういや! 赦して!」
 顔中を涙で真っ赤に染めラウルフィカは泣き叫ぶ。その頬を、ミレアスが再び張り飛ばした。
「うるさい!」
 驚きのあまり、ラウルフィカは声だけでなく涙まで止める。瞼の縁に溜まった最後の滴がぽろりと零れて頬を伝った。
 少年の細い顎をミレアスが掴む。
「いいか、王子様。赦して欲しければ、俺の言うことに従え。いいな?!」
「は……はい」
 青ざめ、かたかたと震えながらラウルフィカは頷いた。視界を布で塞がれていた時よりも、残酷な笑みを浮かべたミレアスの顔が見える今の方がよほど世界が怖い。
「俺のことは、ミレアス様とでも呼んでもらおうか」
「み……ミレアス様」
「それとも、“ご主人様”がいいかな? おい、他の奴らも同じようなこと言ってないだろうな」
「言った……ゾルタが、ご主人様と呼べって……」
 三日前の屈辱を思い出してそっと視線をそらすラウルフィカの手元の腕環を見遣り、ミレアスが舌打ちする。
「ちっ、あの変態宰相め。そうだな、ならミレアス様でいいか。おい、呼んでみろよ、ミレアス様って」
「ミレアス様……」
 殴られるのはもういやだと、ラウルフィカは苦しげな顔をしながらもミレアスに求められるがままそう呼んだ。
「ミレアス様のものが欲しいって言ってみろよ。俺様のが、欲しくて欲しくてたまらないってさ」
「あ……」
 二つの青い瞳からぽろぽろと涙を流しながら、ラウルフィカは求められた通りに口を開く。
「ミレアス様……! ミレアス様のが、欲しい、です! 欲しくてたまらないんです……」
 屈辱的なばかりではなく、純粋な羞恥心までも誘う台詞をももはや自棄となってラウルフィカは言いきった。泣きながら哀願する少年の姿はあまりにも儚げで美しく、ミレアスを魅了する。
「いい子だ……御褒美をやるよ」
 ミレアスは自らのモノを取り出すと、いきなり慣らしもしない後肛にそれを押し込んだ。
「ヒギィ!」
 この数日間で大分使いこまれたとはいえまだまだ成長途中の少年のそこに、体格の良い軍人男の屹立は大きすぎた。内部が裂けて血を流し、潤滑油代わりとなる。
「あ、い……あああ」
 歯を食いしばって苦痛に耐えるラウルフィカに、ミレアスはなおも服従の言葉を口にするよう強要する。
「ご主人様がせっかく御褒美をくれてやったんだ。こんな時に何て言うか……わかるな?」
「あ……ありがとうございます。ミレアス様、ご主人様」
「くくくくっ。よくできたな。じゃあお望み通りに動いてやるよ」
「え……あ、アアアアアアアッ!」
 無理矢理押し込んだそれをミレアスは強引に動かし始めた。華奢なラウルフィカはたくましい男の身体の下で、人形のようにガクガクと揺さぶられる。胸につけられた鞭の痕も、叩かれて腫れあがった尻も、どこもかしこもが痛い。痛みが強すぎて快感の欠片も感じられないうちに、中でミレアスが射精する。
「どうだ? 良かったか?」
「は、はい……ミレアス様、ありがとうございます……」
 傷ついた内側からの血と白濁の液で結合部を濡らしながらも、ラウルフィカは型通りの礼を口にする。
 ミレアスだけが射精し、ラウルフィカは達していない。さんざんいたぶられ、性欲の捌け口にされただけ。ラウルフィカを精神的に痛めつけ抗うその様を楽しんだ他の三人の時よりも、今が一番凌辱に近かった。
「また相手してやるよ、じゃあな王様」
 破いた服で身を隠すラウルフィカに薄い布一枚だけ押し付けて、ミレアスは彼をさっさと部屋から追い出す。
 人気のない廊下へと出た途端、ラウルフィカはその場に蹲り静かに涙を流した。


6.取引

 警備兵の隙間を縫い、ラウルフィカはふらふらとした足取りで中庭へと向かった。
 王宮内の警備は厳しく交代の時間も不規則だが、幼い頃よりこの城で暮らしていたラウルフィカにはその場の空気でどこに人がいるのかわかった。現在この城でもっとも身分が高く守られるべき存在でありながら護衛の目を盗み、植物の植えられた庭へと出る。
 背の高い樹とその足元の茂みに身を隠すようにしながら、ラウルフィカは庭の奥へ奥へと進んだ。
 破かれた衣服、傷だらけの肌。下着すら身につけていない。まとった布には血と、精液がついている。
 こんな姿を誰かに見られるわけにはいかない。
 けれど、そのまま部屋に戻って何事もなく休む振りをすることもできなかった。
 彼はすでに心身ともに限界だった。
 庭の東屋の一つに辿り着き、椅子に縋りつく。
 叩かれた尻は腫れてじんじんと痛み、まともに座ることなどできない。鞭打たれた胸の傷も酷く、慎重に触れないようにしながら椅子の上で組んだ腕に顔を伏せる。
「う……うっ、うっ、うう……!」
 一人になると途端に惨めな気持ちに襲われ、ラウルフィカはたまらず涙を流し始めた。
「もう……いい。何もかも、どうでも……」
 国のため、民のため、志半ばで死んだ父王のためにも五人の男たちの協力を得て国を治める覚悟だったが、その思いは呆気なくも打ち砕かれた。
「もう……嫌なんだ……」
 持ち出した荷物の中には護身用の短剣が入っている。
 ラウルフィカはそれを鞘から抜くと、切っ先を自らの首元に突きつけた。
「父上……母上……」
 不甲斐ない息子を御許し下さい、ラウルフィカは小さく呟く。
 無責任だと罵られようとも、自分の代でこの国の血を絶やすことになってもいい。もう構わない。
 自分は国王の器ではなかったのだ。国のために自らの心も身体も全て犠牲にできるほど、この国に尽くす覚悟がなかった。
 ひんやりとした刃の感触を首に感じながら目を閉じる――。
「陛下」
 顔をあげると、そこには月の化身がいた。
「ザッハール……」
 夜の闇の中に、銀髪の魔術師が静かに佇んでいる。月光を背負い仄かに青く染まったその姿は神秘的で、まるでこの世ならざる者のようだった。
 ラウルフィカは一瞬目を奪われる。
 その隙にザッハールが彼の手から短剣を奪い取っていた。
「返し――」
「死ぬ気だったのですか、陛下」
 責めるでもない静かな口調だからこそ、ラウルフィカはその言葉に後ろめたさを覚える。
「……悪いのか? こんな目に遭って、全てを奪われて、死ぬほど辛いと思っては、いけないというのか?!」
 だがそもそも、目の前の男は自分を弄ぶ五人のうちの一人。ラウルフィカはザッハールを睨みつける。
 短剣を奪われたところで、もう関係ない。生きたいのならばともかく、今のラウルフィカはただ全てから解放されるための死を願っている。
 今となってはもはや、どんな脅しも無意味。
「もう……私を解放してくれ」
 膝立ちのままのラウルフィカは両手で顔を覆う。
 静かに佇むザッハールと跪くような姿勢のラウルフィカ。その姿は何も知らぬ者が見れば、まるで聖者に少年が赦しを請う構図のようにも見えただろう。
 しかし見た目こそ美しく聖者然とした男はどこまでも俗物であり、跪く少年は一国の王だった。
「逃げるのですか? 全てを捨てて……」
「逃げてはいけないのか? 何故、私がこんな目に遭わなければならない……」
「陛下」
 喚きだして暴れたい。それをしようにもまだ身体のあちこちが痛い。破れた衣服に夜気が肌寒くまとわりついてくる。
「……少し、じっとしていてください」
 ザッハールが言い、ラウルフィカの身体に触れるか触れないかのところに手をあてた。温かい光がその手のひらから零れ、ラウルフィカの身体につけられた傷を癒していく。
 そう言えばミレアスとパルシャが話していたか。どんな怪我をしたところで、ザッハールが治せばいいのだと。
「傷を癒してどうするつもりだ……。今度は下手に死なれでもしないよう、私を閉じ込めでもするつもりか? お前たちは王と言う名の傀儡を必要としているのだから」
 叩かれて腫れていた臀部も鞭の痕も、全ての傷をザッハールが癒し終わる。ラウルフィカは彼を引きとめようと、その腕に爪を立ててしがみついた。
 気の触れかける寸前の歪な笑みでザッハールを見上げる。
 青い瞳は縁を赤く染め潤んでいた。傷は治っても身体には疲労が溜まっている。鞭で打たれたせいもあり、熱を出しているのだ。
 泣きたくなる理由はそれだけではないけれど。
「陛下……」
「それともザッハール、明日はお前の番だからか? 他の四人はそれぞれ私を抱く時間を持ったのに、お前一人がいいように使われるだけ使われて終わるのが嫌だったと?」
 嘲るように言い捨てると、腕を強く引かれた。
「ラウルフィカ!」
 仮にも玉座に在る者の名をザッハールは呼び捨てにし、もう片手で今度はラウルフィカの顎を捕らえるとその唇を奪った。
「ん――」
 成すすべもなくラウルフィカはザッハールに口付けを許すこととなる。華奢な少年には、細身とはいえ立派に成人した男性の腕を振り払うこともできない。
 触れ合った唇から熱いものが滑り込んでくる。ラウルフィカの全てを絡め取ろうとでもいうような、情熱的な口付け。
「は……」
 ようやく解放されたラウルフィカが真っ先に求めたのは呼吸だった。長い口付けのせいで、酸素が足りない。頭が酷くぼんやりとする。
 腰が砕けてその場にぺたりと座り込んだラウルフィカの前で、ザッハールが跪く。
「ラウルフィカ陛下、俺の魔術には弱点があります」
 現状がよくわかっていないラウルフィカの目を真っ直ぐに見て、ザッハールはいきなりそう切り出した。
「俺はこの国で最高の魔術師。けれどその唯一の弱点として、“自分の怪我は治療できない”という制約があります」 
「制約……」
 聞いた事がある。魔術は己の魂に誓いを組み込むことでより強くなると。
 だがザッハールは何故よりによって今、この瞬間こんな話をしているのだろう。
「このことをあなたに教えるのは、俺のあなたへの忠誠です」
「忠誠……だと?」
 ゾルタたちと一緒になってラウルフィカを凌辱した男の口から飛び出るには、あまりにも不似合いな言葉だった。
 疑わしげなラウルフィカの視線にもめげず、ザッハールは続ける。
「俺が何故今回宰相たちの計画に参加したか、おわかりになりますか?」
「……そんなもの、知るわけがない」
 長い指を伸ばし、月の化身のような男は藍闇の少年のおとがいに優しく触れた。
「あなたが欲しかったからです。ベラルーダ国王ラウルフィカ様」
「――」
 ラウルフィカは目を見開いた。
 さわさわと夜風に揺れる木々の葉が擦れ合う音がやけに耳につく。
「何を……」
 反射的に、ラウルフィカは後じさりザッハールから距離をとろうとした。目の前の男の顔が、急に見知らぬ者のように思えてくる。
 怖い。
 ゾルタやナブラたちに犯された時より、ミレアスに暴力を振るわれた時より、今が一番怖い。
 無理矢理身体を開かされたときはもちろん辛くはあった。けれど今のような、得体の知れない恐れを抱くようなことはなかった。
「逃げないで」
 ザッハールに言われずとも、ラウルフィカの背の後ろには東屋の椅子があってそれ以上奥には行けない。
 けれどザッハールはそれ以上ラウルフィカが離れるのを許さず、腕を伸ばして少年の身体を引き寄せてしまう。
 半ば押し倒されるような形で、ラウルフィカはザッハールの腕の中に囚われる。至近距離から彼は囁いてきた。
「あ……」
「ラウルフィカ様、聞いてください。――俺が、あなたの手足となります」
 美しい男の美しい声は、まるで悪魔のようだった。
 そう、これは間違いなく悪魔の囁き。
「あなたは本当にこのまま死んでもいいと言うのですか。あなたを穢した奴らに、復讐の一つさえすることもなく」
 復讐。
 これまで思いつきもしなかったその言葉がザッハールの口から発された時、ラウルフィカの身体にぴんと一本の筋が通ったような感覚を覚えた。
「復讐……」
「そうです。例え弱みを握られていようと、あなたはこの国の王。方法さえ選べば、あいつらを出し抜く方法などいくらでもある」
「お前があいつらを今すぐ皆殺しにでもしてくれるっていうのか?」
 そんなことできはしないだろうとせせら笑うと、ザッハールは底の見えない不思議な笑みで返した。
「もちろんそうして差し上げてもよろしいのですが、それではあなたも共倒れだ。人格的にはともかく、宰相殿たちは今のこの国にとって必要な人間。せめてあなたが一人でも国を支えることができるようになるまでは、生かしておいた方が役に立つでしょう」
「だがそれまで何年かかる? 私はまだ子どもだ。王になる能力などない無力なガキだ。大人になって、この国を治められるようになるまであと何年必要だと言うのだ。十年? 二十年? ……そんな時間を、あいつらに玩具のように弄ばれるのを耐え続けろと言うのか!」
 できるはずがないと言い放ったラウルフィカは、ザッハールの胸を突き飛ばす。押されて僅かに身体を揺らした男は、しかし説得を止めなかった。
「あなたには才能がある。一年二年とまではいかないが、五年も経てば立派な王となるだろう」
「五年でも十分な長さだ。その間奴らに弄ばれ続けるのであれば今ここで舌を噛んだ方がマシだと思うにはな」
 耐えられるはずなどないと、自らの意志の弱さを露呈しても構わないとばかりにラウルフィカはザッハールの言葉を突っぱねる。
 再び顔を覆ってしまったラウルフィカを、ザッハールがにじりよって抱きしめる。
「陛下……」
「私に構うな。お前が本当に一欠片でも私のことを好きだと言うなら……このまま死なせてくれ」
「ラウルフィカ」
 名を呼ばれてぐいと顔を引きあげられる。再びザッハールの唇に呼吸を奪われていた。
「ん……んんっ、んう……」
 滑り込んだ舌が口内を蹂躙する。伸びて来た舌がラウルフィカの舌を絡めとり、口腔をくまなく探られる。
 歯列を割って入ってきたものの貪欲さは、蟲の巣穴に嘴を差し込む鳥のようだった。中にあるものを残らず食いつくそうと考えているかのように、舌が、奪っていく。食われるのを待つ哀れで無力な少年は、ただその身を縮こませるしかないのだ。
 お互いの唾液が混じり合い、口の端からぽたぽたと零れていく。
「はぁっ……、は、はっ……なに、を……」
「何って、キスですよ。言ったでしょう? あなたが欲しいと」
「……ザッハール……」
「あなたが好きだから、あなたに死なれてもらっては困るんです」
 まだ呼吸の整わないラウルフィカを、ザッハールは抱き寄せ優しく地面に押し倒した。
「や……やめろ、やめて……」
 ここ数日でこの後に来るものの予想がついてしまったラウルフィカは青ざめる。まだミレアスに犯された時の恐怖が残っているため首を振ろうとするが、ザッハールの手は止まらない。
 申し訳程度に巻き付けられた布を剥ぎ、先程癒えたばかりの裸身を晒していく。
「綺麗だ……ラウルフィカ様、あなたは本当に美しい」
 ザッハールはラウルフィカの細い足を掴むと、その甲に口付けた。局部を晒すような格好で思いもかけなかった場所に唇を落とされ、ラウルフィカは混乱のあまり顔に朱を昇らせる。
「な、や、やめっ」
「ラウルフィカ様、いいことを教えて差し上げます。男にとって、貞節などさしたる意味を持ちはしません。それが王ともなれば特にね。誰と寝ようが気にすることはありません」
「だが……」
「ふしだらなことだと考えるから辛くなるのですよ。所詮は遊びの一つだと、割り切って楽しんでしまえばいいんです」
「遊びだなんて、そんなの」
 ザッハールの手が伸び、ラウルフィカのものをそっと掴んだ。
「う、くっ、やめろ!」
「まだ抵抗なさるのですか?」
 ザッハールの手で優しく擦られ、ラウルフィカは身体の昂ぶりを覚え始める。治療の効果が出て来たのか、体調はそろそろ万全に戻っているのだ。刺激されれば反応してしまう。
「野の獣だって、より優れた子孫を残すために何度もつがいを変えるのです。気になさることはない」
「に、人間は獣ではない! 私はそんな風に堕落したくはない!」
 ザッハールのあまりの言いように反論したラウルフィカは、しかしそれこそ獣のような瞳とかち合うことになる。
「何を仰いますのやら。――人間とは、この世で最も救いがたい獣の名前ですよ」
「うぁ!」
 ザッハールの手に力がこめられ、ラウルフィカは短い悲鳴をあげた。
「あっ、あっ、もう……!」
 親指の腹でぐりぐりと先端を刺激され、ラウルフィカは自分の中で欲望が膨れ上がるのを感じた。
「で、出る! 離し……」
 言う間に発された液体が、ラウルフィカの下半身を覗き込むようにしていたザッハールの顔にかかる。ラウルフィカは一瞬呆然として、次いでさーっと血の気の引く感覚を覚えた。
「す、すまん」
「いいえ。構いませんよ。あなたのものなら……ね」
 ラウルフィカは赤くなるやら青くなるやらで忙しない。しかしザッハールは微塵も動じずに、手に残ったそれと顔についた分を指先にとり舐め始めた。
「なっ……! お、おい、やめろ! そんなもの口に入れるなんて!」
「構わない、と言ったでしょう? あなたの出したものなら、俺はなんだっておいしくいただきますよ」
 くすくすと笑って、ザッハールはラウルフィカに見せつけるようにしながら白濁の液を舐めとってゆく。ザッハールの赤い舌が伸びて白い液体を掬うたびに、ラウルフィカはいたたまれない気分と、それだけではないもやもやとした感覚のために目を逸らしたくなった。
「ふふ、そろそろどきどきしてきませんか? 陛下」
「わ、私は……」
「隠さなくていいんですよ。むしろ、その感覚に身を任せてしまいなさい、ラウルフィカ様。そうすれば、肉体を重ねることなどなんともなくなる」
 最後の一滴をわざといやらしい仕草で舐めとりながら、ザッハールが宣言する。
「俺があなたに教えてさしあげますよ、快楽ってものを」
「結構だ!」
「まぁ、そう言わずに」
「っ」
 舐めて濡らした指を、ザッハールはラウルフィカの後ろへと挿し入れた。
「うう……」
 蠢く長い指を感じながら、ラウルフィカは抵抗もできずされるがままになっている自分に気づいた。今までと同じように逃げても無駄だからという意味ではない。ザッハールの指づかいは、これまでの他の連中とは違う。
 それが、下腹に熱を生むようでその感覚から逃れられないのだ。
「あ……や、やだ」
「気持ち悪いだけじゃなく、いろいろと感じるでしょう」
「こんなの、だめ……」
「そんなことありませんよ」
 内壁を丁寧に擦られると、たまらず高い声が漏れた。
「ん、うぅ、うん……あ、あ」
 奥の方のある一点を突いた瞬間、あからさまに声が変わるのが自分でもわかった。
「ここですね」
「や、やだ。だめ! ヒァアア!」
 ザッハールが心得た調子でその点を刺激すると、たまらずに裏返った声があがる。
「んん……んんー!」
 自分で自分の口元を押さえるが、声を殺しきれない。ここが人気のない中庭だからいいようなものの、建物の中だったら部屋中に声が響いていたことだろう。
「そろそろほぐれてきたな」
 いつの間にか二本、三本と増えていた指がいきなり引き抜かれると、今まで嫌だったはずなのに途端に物足りなくなった。
「あ……」
「そんな切ない目で見ないでくれ、陛下。これからもっといいものをやるから」
「な……」
 ザッハールが自らの着衣を脱ぎ棄て、ラウルフィカの中に自身を埋め込む。
「い、ぁ……っ」
「ああ、陛下……」
 ラウルフィカの片足を抱えながら、首筋に口づけるようにしてザッハールはラウルフィカを抱く。ずぷずぷと入り込んだものの質量に、ラウルフィカが苦しげに眉を寄せた。
「ふぁ……」
「痛いですか、陛下」
「……ううん、でも、苦し……」
「慣れて来たら、すぐに気持ち良くなりますよ」
 ザッハールはラウルフィカの呼吸が整うのを待って動き出す。
「あ、あ、あっ、ああああ、あっ」
 先程指で探り当てられた点を集中的に突かれて、一気に快感が背筋を駆けのぼった。寒気のようなぞくぞくとした感覚と共に、再び白濁をぶちまける。
 ザッハールはそれだけでは満足せず、ラウルフィカの呼吸が整うと再び華奢な身体を揺さぶり始めた。肉を打ちつけ合う音と、鈍い水音がひっきりなしに零れる。
 ラウルフィカは何度か達し、ザッハールもラウルフィカの中に出した。お互いの体力が尽きるまで、飽きもせずひたすら貪り合っていた。まだ夜が終わっていないのが不思議なくらいだ。
「は……はぁ、はぁ……」
 ザッハールは身を起こすと、裸の胸にラウルフィカをもたれさせるようにして抱きとめた。
「どうです? 今のはちょっと気持ち良かったでしょう?」
「……」
 物凄く答えづらい質問に、ラウルフィカは黙り込んだ。ここでうんと答えるのは癪な気がする。
「あなたがこれを覚えておけば、宰相殿たちとする時にも役に立つでしょう。奴らが突っ込んできても、自分でいいところに持っていけばいいんです」
「……ミレアスは殴る」
「奴は加虐趣味ですからね。だが、奴はあなたを殴ることで満足しているわけじゃない。あなたが怯えるのが楽しいんですよ。殴る相手なんて軍の中にいっぱいいますからね。あなたはそう痛くないうちに物凄く痛く感じているような演技をしておけば、それ以上の乱暴はしてきませんよ」
 ミレアスの態度を思い出し、ラウルフィカはザッハールの言葉も信憑性があると考えた。彼らはラウルフィカを屈服させるのを楽しんでいるのだから、素直に言うことに従えばそれ以上酷い目に遭うことは少ない。もっと、過剰なくらいに弱弱しく演技すればいいのだ。
「それでも駄目なら、幾つか薬を差し上げますよ。痛みを軽減するもの、感度をよくするもの」
「ザッハール」
 ラウルフィカは、自分を抱きしめる銀髪の青年を見つめた。
「お前は本当に、私の味方となるのか」
「ええ。俺はあなたの味方、あなたの臣下、あなたの奴隷、あなたの犬です。いいようにお使いください」
「何故そこまで」
「これぞ惚れた弱みってやつです」
 その代わりに、とザッハールは続けた。
「俺があなたを愛することを許して下さい」
 先程ラウルフィカを恐れさせた、あまりにも一途な瞳だった。つられるように、ラウルフィカも口を開く。
「……許す」
「ありがたき幸せ」
 取引は成立した。
 裸のままで抱き合う。再びラウルフィカがザッハールの胸にもたれる形となる。
 ラウルフィカの黒髪をザッハールの指が撫でた。微かな汗のにおいと人肌の温度に埋もれながら、ラウルフィカは空にかかる月を見上げる。
 死のうと思っていた。
 自分一人ではこの状況を覆すことも、受け入れることもできないから、と。
 けれどたった一人の男と取引しただけで、その決意は呆気なく翻ろうとしている。
(私は復讐する。私から王としての立場を奪った、私から「王国」を奪った奴らに)
 宰相ゾルタ、大貴族ナブラ、商人のパルシャ、軍人ミレアス、そして。
(そしてこの男に)
 今更忠義面をしたところで、ザッハールがラウルフィカを一度裏切ったことは間違いない。
 許すわけにはいかない。
(その日まで利用してやる。全てを利用し、自分さえも利用して生き抜いてやる)
 青い瞳は、その瞳の色とよく似た光を注ぐ月をきつく睨む。
 それは、まるでこの世界そのものを憎むような眼差しだった。

 お前たちを絶対に赦さない。私と一緒に地獄に堕ちろ――。

 ベラルーダ王ラウルフィカ、彼はこの日、自らの人生を復讐に捧げることを決意した。